監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は障害認定基準(第7節 肢体の障害)、および日本年金機構の20歳前傷病に関する公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
脳性麻痺は、運動機能の制限の程度に応じて障害認定基準「第7節 肢体の障害」にもとづき、障害年金の対象になります。
脳性麻痺は先天性の障害として扱われ、多くの場合「20歳前傷病」として、保険料の納付要件なしで障害基礎年金を申請できます。
ただし、幼少期の受診歴が初診日の証明として必要になるため、当時の診察券や母子手帳、第三者証明などを早めに確認しておくことが重要です。
「脳性麻痺は生まれつきの障害だから、大人になってから障害年金を申請するのは今さらではないか」と考える方は少なくありません。実際には、40代・50代になってから初めて申請を検討し、受給に至った方もいらっしゃいます。診断から何十年も経っているからといって、申請の権利が失われるわけではありません。
脳性麻痺そのものは非進行性の脳の病変ですが、体の使い方に無理が生じることで、年齢とともに関節や筋肉への負担が蓄積し、若い頃より生活のしづらさが増していく方もいます。このため、診断からずいぶん時間が経っていても、申請を検討する価値は十分にあります。
この記事では、脳性麻痺が障害年金の対象になる仕組みと、申請にあたって特に注意したい初診日の考え方について整理します。
脳性麻痺でも障害年金は申請できますか?
申請できます。運動機能の制限の程度が、障害認定基準「第7節 肢体の障害」の基準に達していれば、障害年金の対象になります。脳性麻痺による麻痺の範囲が上肢・下肢など複数の関節にわたる場合は、関節可動域・筋力・巧緻性・速さ・耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定する「肢体の機能の障害」の基準が使われます。
「新聞紙をつまめるか」「タオルを絞れるか」「歩行や階段の昇降がどこまでできるか」といった、日常生活の具体的な動作がどこまでできるかが、診断書上でも重要な判断材料になります。
知的障害を伴う場合はどうなりますか?
脳性麻痺に知的障害を伴う場合は、肢体の障害とあわせて精神の障害の基準も考慮され、複数の障害を組み合わせて認定される「併合認定」の対象になることがあります。
身体障害者手帳を持っていないと申請できませんか?
身体障害者手帳を持っていなくても、障害年金は申請できます。手帳の取得は障害年金の申請要件ではなく、別々の制度として独立しています。
脳性麻痺の初診日はいつになりますか?
脳性麻痺は先天性の障害として扱われ、多くの場合、乳幼児期に初めて医療機関を受診した日が初診日になります。先天性の知的障害のように出生日そのものが初診日として扱われるわけではなく、乳幼児健診や新生児期の入院など、実際に医療機関を受診した記録が必要になる点には注意が必要です。
初診日が20歳になる前にある場合、保険料を納付していなくても「20歳前傷病」として障害基礎年金を申請できる仕組みになっています。ただし、20歳前傷病には所得による支給制限があるため、この点は別の記事で詳しく解説しています。厚生年金には加入せず国民年金のみの扱いになる点も、あわせて押さえておきたいポイントです。
子どもの頃に脳性麻痺と診断されたのですが、当時のことはあまり覚えていません。それでも申請できますか?
社労士ご本人の記憶がなくても大丈夫です。母子手帳や当時の診察券、ご家族の記憶などから、初診日を特定していく方法があります。まずは手元に残っている資料がないか、確認してみましょう。
20歳を過ぎてから初めて診断された場合はどうなりますか?
脳性麻痺の原因となる脳の損傷自体は出生前後に生じているため、実際の発症時期は乳幼児期であることがほとんどです。診断が遅れた場合でも、症状が現れ始めた時期にさかのぼって初診日を検討することになります。
幼少期の受診歴が分からない場合はどうすればよいですか?

診療録が残っていない場合は、診察券や母子手帳の記載、第三者証明などにより初診日を証明することを検討します。脳性麻痺は幼い頃に診断された後、症状が比較的落ち着いていれば長期間通院していないことも多く、当時のカルテがすでに廃棄されているケースも珍しくありません。
そうした場合でも、母子手帳の健診記録、当時の診察券、通院先の変遷を知るご家族からの証言などを積み重ねることで、初診日を認めてもらえることがあります。早めに手元の資料を確認しておくことをおすすめします。ご両親が高齢になっている場合は、記憶が鮮明なうちに当時の状況を聞き取っておくことも大切です。
第三者証明とは何ですか?
医療機関の記録以外の方法で初診日を証明する制度です。当時の状況を直接見て知っていた方や、家族から聞いていた方などによる証言をもとに、初診日を認めてもらえる場合があります。
母子手帳を紛失している場合はどうすればよいですか?
母子手帳がなくても、他の資料や証言をあわせて申立てをすることは可能です。ただし、証明できる資料が多いほど、初診日の認定はスムーズになります。まずはご実家などに残っていないか確認してみましょう。
何級として認定されますか?
麻痺の範囲や日常生活の動作の制限度合いによって、1級から3級まで幅広く認定される可能性があります。両上肢・両下肢など広い範囲に麻痺があり、日常生活の動作のほとんどに介助が必要な状態であれば1級、介助が常に必要というわけではないものの日常生活が著しく制限される状態であれば2級、労働に制限を受ける程度であれば3級の目安になります。
| 等級 | 状態の目安 |
|---|---|
| 1級 | 日常生活の動作のほとんどに他人の介助が必要な状態 |
| 2級 | 常に介助が必要ではないが、日常生活が著しく制限される状態 |
| 3級 | 労働に著しい制限を受けるか、制限を加える必要がある状態 |
片麻痺と両麻痺で認定の基準は変わりますか?
麻痺の型そのものよりも、実際の動作の制限がどの程度かが重視されます。片麻痺であっても日常生活への支障が大きければ上位等級になりますし、両麻痺でも症状が軽ければ、それに応じた等級になります。
車椅子を使用していると等級は上がりますか?
車椅子の使用の有無だけで機械的に決まるものではありませんが、移動や日常生活の動作にどれだけ介助や補助具が必要かを示す材料のひとつにはなります。
大人になってから申請しても大丈夫ですか?
大丈夫です。40代・50代になってから初めて申請し、受給に至った例もあります。脳性麻痺そのものは非進行性ですが、長年にわたる体の使い方の偏りから、加齢とともに関節の痛みや筋力の低下といった二次的な症状が現れ、若い頃より生活のしづらさが増す方が少なくありません。これは「脳性麻痺の二次障害」と呼ばれることもあり、若いころは自力でできていた動作が、年齢とともに難しくなっていくケースが目立ちます。
「昔から抱えている障害だから今さら」と考えず、現在の生活の困難さを基準に、あらためて申請を検討する価値があります。
過去にさかのぼって請求できますか?
状況によっては、20歳到達時点にさかのぼって請求できる場合があります。ただし、時効により受け取れる年金は5年分が限度である点には注意が必要です。
症状が悪化したら、あらためて等級が見直されますか?
見直される可能性があります。すでに年金を受給している場合でも、症状が悪化したときは「額改定請求」という手続きにより、上位等級への見直しを求めることができます。
よくある質問
Q. 20歳前傷病だと所得制限があると聞きましたが、本当ですか?
A. 本当です。20歳前傷病による障害基礎年金には、保険料を納めていないことに配慮した所得制限があり、一定の所得を超えると年金の全部または半分が支給停止になります。制限額の詳細は別の記事で解説しています。
Q. 診断書はどの様式を使いますか?
A. 「肢体の障害用」の様式を使用します。知的障害を伴う場合は、あわせて「精神の障害用」の診断書が必要になることもあります。
Q. 保険料を納めていなくても本当に大丈夫ですか?
A. 20歳前傷病の場合、初診日が年金制度に加入する前(20歳前)にあるため、保険料の納付要件は問われません。ただし、前述のとおり所得による支給制限がある点は理解しておく必要があります。
Q. 特別支援学校に通っていた記録は役に立ちますか?
A. 直接の初診日証明にはなりませんが、当時の状態を示す参考資料として、申立ての際に役立つことがあります。手元にある記録は、種類を問わず保管しておくとよいでしょう。
Q. 障害年金はいくらもらえますか?
A. 障害基礎年金は1級が年額1,059,125円、2級が年額847,300円です(令和8年度、子の加算を除く)。20歳前傷病は障害基礎年金のみが対象となるため、この2つの等級のいずれかで認定されます。
まとめ:脳性麻痺と障害年金の申請ポイント

脳性麻痺は、運動機能の制限の程度に応じて障害年金の対象になります。多くの場合、20歳前傷病として保険料の納付要件なしで申請できますが、幼少期の初診日をどう証明するかが申請の大きなポイントになります。診断からずいぶん時間が経っていても、大人になってからの申請は十分に検討する価値があります。
香川・岡山・愛媛で障害年金のご相談をお受けしていても、脳性麻痺の方から「今さら申請していいのか分からない」というお声をいただくことがあります。初診日の証明に不安がある方ほど、早めに専門家へ相談し、手元にある資料を一緒に整理していくことをおすすめします。ご家族の記憶がまだ鮮明なうちに動き始めることが、スムーズな申請につながります。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
LINEでのご相談手順(24時間受付)
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