監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は精神保健福祉法、国民年金法・厚生年金保険法、および厚生労働省・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
精神障害者保健福祉手帳と障害年金は、根拠となる法律も運営主体も異なる、まったく別の制度です。
手帳は精神保健福祉法にもとづき都道府県・政令指定都市が交付する福祉サービス利用のための証明書で、障害年金は国民年金法・厚生年金保険法にもとづき日本年金機構が支給する現金給付です。
どちらも1級から3級までの等級がありますが、判定基準や審査の主体が異なるため、手帳の等級がそのまま年金の等級になるとは限りません。
精神疾患で通院されている方から、「精神障害者保健福祉手帳を持っているので、障害年金も自動的にもらえますか?」というご質問をよくいただきます。逆に、「手帳を持っていないので、障害年金は申請できないのでは」と思い込んでいる方もいらっしゃいます。どちらも制度への理解不足からくる誤解であり、実際には申請の可否に直接影響しません。
どちらも誤解です。この2つは似た名前の等級を持ちながら、実際にはまったく別の制度として運用されています。混同したまま申請の準備を進めると、必要な書類を取り違えたり、申請のタイミングを誤ったりすることもあります。特に「手帳の等級が低いから、年金も期待できないだろう」と自己判断して、申請自体をあきらめてしまうケースは少なくありません。
この記事では、精神障害者保健福祉手帳と障害年金の違いを、制度の目的・運営主体・等級の決まり方の3つの観点から整理します。
精神障害者保健福祉手帳と障害年金は、それぞれ何のための制度ですか?

手帳は福祉サービスを受けるための証明書、障害年金は生活を支える現金給付です。精神障害者保健福祉手帳は精神保健福祉法にもとづき、精神障害者の自立と社会参加を促進するために、税金の控除や公共料金の割引、就労支援などのサービスを受けやすくする証明書です。
一方、障害年金は国民年金法・厚生年金保険法にもとづき、病気やケガによって生活や仕事に支障が出た場合に、現役世代でも受け取れる現金の年金です。目的も、実際に受け取れるものも、まったく異なります。手帳が「使うと出ていくお金を減らす」ための制度だとすれば、年金は「入ってくるお金を保障する」ための制度だとイメージすると分かりやすいかもしれません。
| 精神障害者保健福祉手帳 | 障害年金 | |
|---|---|---|
| 根拠法 | 精神保健福祉法 | 国民年金法・厚生年金保険法 |
| 運営・審査 | 都道府県・指定都市(精神保健福祉センター) | 日本年金機構 |
| 目的 | 福祉サービスの利用(税制優遇・割引・就労支援等) | 生活を支える現金給付 |
| 等級 | 1級〜3級 | 1級〜3級(3級は厚生年金のみ) |
| 有効期限 | 2年ごとの更新 | 更新時期は等級・症状により異なる |
手帳を持っていると何ができますか?
所得税・住民税の控除、自動車税の減免、公共交通機関の運賃割引、携帯電話料金の割引、障害者雇用枠での就労など、生活費の負担を軽くする支援を受けられます。自治体によっては、公営住宅への優先入居や、美術館・博物館の入場料減免といった独自のサービスを行っているところもあります。受けられるサービスの内容は、お住まいの自治体によって異なるため、窓口で確認するとよいでしょう。
手帳を持つことでデメリットはありますか?
特にありません。手帳を持つこと自体で不利益が生じることはなく、症状が軽くなれば返却したり、更新をしないという選択もできます。
手帳の等級と年金の等級は同じ基準で決まりますか?
同じ基準では決まりません。手帳の等級は、精神疾患の状態と能力障害(日常生活・社会生活の制限)の状態の両面から、都道府県・指定都市の精神保健福祉センターが総合的に判定します。
一方、障害年金の等級は、日本年金機構が障害認定基準にもとづいて、労働能力や日常生活能力の制限の程度を審査します。判定する組織も基準の細部も異なるため、同じ状態であっても、手帳と年金で異なる等級になることがあります。実際に、手帳では軽めの等級でも、年金では重い等級として認定されるケースは珍しくありません。
精神障害者保健福祉手帳が3級なんですが、障害年金も3級くらいになるんでしょうか?
社労士そうとは限りません。手帳と年金は別の基準で審査されるので、手帳が3級でも、実際の生活の制限度合いによっては年金は2級以上と判断されることもあります。手帳の等級にとらわれず、まずは年金の基準で状態を整理してみましょう。
手帳の等級が低いと、年金の申請は不利になりますか?
不利にはなりません。年金の審査は年金独自の基準で行われるため、手帳の等級はあくまで参考情報のひとつです。手帳が3級だからといって、年金の申請をあきらめる必要はありません。
障害基礎年金と障害厚生年金、どちらが対象になりますか?
初診日にどちらの年金制度に加入していたかで決まります。厚生年金加入中に初診日があれば3級を含む障害厚生年金の対象に、国民年金加入中であれば1級・2級のみの障害基礎年金の対象になります。
手帳を持っていないと障害年金は申請できませんか?
手帳を持っていなくても、障害年金は申請できます。手帳の取得は障害年金の申請要件ではなく、2つの制度は独立して申請できる仕組みになっています。
「手帳を持っていないから年金の対象外」と自己判断して申請をあきらめてしまうケースがありますが、これは制度上の誤解です。手帳なしで障害年金を受給している方も多くいらっしゃいます。年金の審査で必要になるのは手帳ではなく、初診日や保険料納付要件、医師の診断書といった、年金独自の書類です。
逆に、年金を受給していないと手帳は申請できませんか?
こちらも申請できます。手帳は精神科への通院歴(初診から6ヶ月以上経過していること等)があれば、年金の受給状況にかかわらず申請できる制度です。
どちらを先に申請すればよいですか?
決まった順序はありません。生活費の支えとして年金を優先したい方は年金から、割引や就労支援をすぐに使いたい方は手帳から、というように、ご自身の状況に合わせて選んで問題ありません。
障害年金を受給していると、手帳の申請がラクになりますか?

精神疾患を理由に障害年金を受給している場合、手帳の診断書の代わりに年金証書の写しを提出できます。通常、手帳の申請には精神科医が記入した専用の診断書が必要ですが、すでに精神疾患を事由とする障害年金の年金証書を持っている場合は、その写しをもって診断書に代えることが認められています。
これは、年金の審査ですでに精神疾患による障害の状態が確認されていることを踏まえた運用です。新たに手帳用の診断書を主治医に依頼する手間や費用を省ける点は、あまり知られていない実務上のメリットといえます。年金の申請から時間が経っていない場合ほど、この方法を使えるタイミングを逃さないようにしたいところです。
この場合、手帳の等級も年金と同じになりますか?
年金証書の写しを診断書代わりに使う場合でも、手帳の等級判定は精神保健福祉センターが改めて行うため、年金の等級とは異なる等級になることがあります。
身体障害や知的障害の年金でも同じ扱いになりますか?
この診断書代替の取り扱いは、精神疾患を事由とする障害年金に限られます。身体障害者手帳や療育手帳は、それぞれ別の法律・基準にもとづく制度のため、同様の代替は原則適用されません。制度ごとに根拠となる法律が異なることが、こうした取り扱いの違いにも表れています。
両方を持つと、どんなメリットがありますか?
生活費を支える現金給付と、日々の負担を軽くする福祉サービスの両方を受けられます。障害年金だけでは対応しきれない税金や公共料金の負担を、手帳の割引・控除制度で補うことができます。
両方を申請する場合でも、審査はそれぞれ独立して行われるため、片方の結果がもう片方に不利に働くことはありません。手帳の申請が先でも、年金の申請が先でも、どちらの順序でも問題なく進められます。ご自身の状態を整理したうえで、両方の制度を検討してみることをおすすめします。
よくある質問
Q. 手帳の等級が3級でも、障害年金は2級になることはありますか?
A. あります。手帳と年金は判定する組織も基準も異なるため、手帳が3級であっても、年金の認定基準に照らして2級以上と判断されることは珍しくありません。
Q. 発達障害やてんかんも手帳の対象になりますか?
A. なります。精神障害者保健福祉手帳は、統合失調症やうつ病だけでなく、てんかんや発達障害など、長期にわたり日常生活・社会生活に制約がある精神疾患全般を対象としています。
Q. 手帳の有効期限はどれくらいですか?
A. 手帳の交付日が属する月から2年後の月末までです。身体障害者手帳と異なり有効期限が定められているため、継続して利用する場合は更新の申請が必要です。
Q. 手帳の申請はどこで行いますか?
A. お住まいの市町村の担当窓口を経由して、都道府県知事または指定都市市長に申請します。障害年金のように年金事務所ではなく、市区町村の障害福祉担当窓口が窓口になります。
Q. 障害年金はいくらもらえますか?
A. 障害基礎年金は1級が年額1,059,125円、2級が年額847,300円です(令和8年度、子の加算を除く)。障害厚生年金は加入期間や給与水準によって金額が変わるため、一律の金額でお答えすることはできません。手帳による給付はなく、税制優遇や公共料金の割引が中心である点が、年金との大きな違いです。
まとめ:精神障害者保健福祉手帳と障害年金の申請ポイント
精神障害者保健福祉手帳と障害年金は、根拠となる法律も、審査する組織も、受け取れるものも異なる別々の制度です。どちらか一方を持っていないともう一方を申請できない、というものではなく、それぞれ独立して申請できます。手帳の等級と年金の等級が一致するとは限らない点も、あわせて押さえておきたいポイントです。
香川・岡山・愛媛で障害年金のご相談をお受けしていても、手帳の等級を理由に年金の申請をあきらめてしまっている方に出会うことがあります。手帳と年金は別の基準で判断される制度なので、手帳の等級だけで結果を決めつけず、まずはご自身の生活の状況を整理してみることをおすすめします。どちらの制度から手をつければよいか迷う場合も、遠慮なくご相談ください。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
- 障害者手帳について(精神障害者保健福祉手帳)(厚生労働省)
- 精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日健医発第1133号)(厚生労働省)
- 障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
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