監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は障害認定基準(第18節 その他の疾患による障害)、および「ヒト免疫不全ウイルス感染症に係る障害認定について」(平成10年2月4日庁保険発第1号通知)とその後の追加留意事項に基づき作成しています。
この記事の結論
HIV感染症は、障害認定基準「第18節 その他の疾患による障害」にもとづき、免疫機能の低下や日常生活・労働への支障の程度に応じて、障害年金の申請対象になります。
判断にはCD4陽性Tリンパ球数などの検査数値と、倦怠感・体重減少・日和見感染症の既往といった具体的な症状の両方が考慮されるため、診断書に必要項目を漏れなく記載してもらうことが重要です。
治療の進歩によってウイルス量やCD4値が改善すると、認定基準を満たさなくなり支給が停止されるケースがある点にも注意が必要です。
HIV感染症と診断された方から、「今の症状で障害年金の対象になるのか分からない」というご相談をいただくことがあります。HIV感染症は障害年金の対象疾患ですが、そのことを知らない方も少なくありません。通院を続けながら仕事や生活を維持されている方も多く、どのタイミングで申請を考えればよいのか、判断に迷う方が多い印象です。
HIV感染症は、長期間にわたって免疫機能が損なわれる特有の経過をたどる病気です。抗HIV療法の進歩によって症状や検査数値が変動しやすいことから、一般的な内部疾患の基準だけでは実態に即した判断が難しい面があります。このため、検査数値や身体症状をより具体的に定めた専用の留意事項が、国から別途示されています。
この記事では、HIV感染症がどのような基準にもとづいて障害年金の等級を判断されるのか、検査数値と身体症状の両面から整理します。
HIV感染症は障害年金の申請対象になりますか?
障害認定基準「第18節 その他の疾患による障害」にもとづき、免疫機能の低下や日常生活・労働への支障の程度に応じて、障害年金の申請対象になります。HIV感染症は免疫機能が長期にわたって損なわれることで、日和見感染症や治療薬の副作用など、他の疾患とは異なる特有の経過をたどります。
このため、基本となる認定基準に加えて、HIV感染症に特化した留意事項が別途定められています。
なぜHIV感染症には専用の基準があるのですか?
抗HIV療法の進歩が速く、症状や検査数値が変動しやすいためです。平成10年に基本的な考え方が示され、平成23年にはより具体的な検査数値・症状の基準が追加されました。
障害の対象にはどんなものが含まれますか?
HIV感染症そのものによる障害だけでなく、抗HIV療法の副作用によって生じる労働・日常生活上の障害も、あわせて対象に含まれます。治療薬は通常の薬物治療と比べて副作用が大きいものが多く、治療の継続自体が生活に大きな負担となるケースも珍しくありません。
何級に認定されるか、目安はありますか?
通知には、1級から3級までの状態の目安が例示されています。1級は回復困難な状態で生活が室内に制限されるか全面的な介助を要するもの、2級はエイズの指標疾患の発生や既往により治療・日常生活が著しく制限されるもの、3級は口腔カンジダ症等の症状が持続・反復し労働が制限されるもの、とされています。
| 等級 | 状態の目安 |
|---|---|
| 1級 | 回復困難な状態で、生活が室内に制限されるか、日常生活に全面的な介助を要する |
| 2級 | エイズ指標疾患の発生・既往により、治療や日常生活が著しく制限される |
| 3級 | 口腔カンジダ症等の症状が持続・反復し、労働が制限される |
一般状態区分表はどのように使われますか?
「身のまわりのこともできず常に介助が必要」な状態なら1級、「歩行や身のまわりのことはできるが介助を要することがある」程度なら2級、というように、日常生活の状況を示す一般状態区分表も、等級判断の参考にされます。
検査数値だけで機械的に決まりますか?
いいえ、決まりません。検査数値だけで一律に判定するのではなく、症状の経過や治療の状況もあわせて総合的に認定される仕組みになっています。数値がわずかに基準を外れているだけで対象外と自己判断せず、身体症状もあわせて確認することが大切です。
検査数値はどのように考慮されますか?
CD4陽性Tリンパ球数を中心に、5つの検査項目の基準に該当する数が、等級判断の目安のひとつになります。平成23年の追加基準では、次のような検査所見が示されています。

| 検査項目 | 基準の目安 |
|---|---|
| CD4陽性Tリンパ球数 | 4週以上あけた連続2回の平均値が、1級・2級は200/μℓ以下、3級は350/μℓ以下 |
| 白血球数 | 3,000/μℓ未満が4週以上あけて連続2回以上 |
| ヘモグロビン量 | 男性12g/dℓ未満・女性11g/dℓ未満が4週以上あけて連続2回以上 |
| 血小板数 | 10万/μℓ未満が4週以上あけて連続2回以上 |
| HIV-RNA量 | 5,000コピー/mL以上が4週以上あけて連続2回以上 |
CD4の数値は基準を満たしているのですが、これだけで大丈夫でしょうか?
社労士検査数値だけでなく、倦怠感や体重減少といった身体症状もあわせて見られます。数値と症状の両方を診断書にきちんと反映してもらうことが大切ですよ。
これらの基準をいくつ満たせば認定されますか?
目安として、CD4値の基準に加えて2〜3項目以上の検査所見と、後述する身体症状のいずれかを満たすことが、1級から3級の判断材料になります。
検査数値が改善したら不利になりますか?
抗HIV療法によりCD4値やHIV-RNA量が改善すること自体は治療の成果です。ただし、認定基準を満たさなくなれば、更新時に等級が下がったり、支給が停止されたりすることがあります。
どんな症状が考慮されますか?
強い倦怠感、体重減少、発熱、消化器症状、抗HIV療法の副作用など、日常生活・労働への具体的な支障が考慮されます。平成23年の基準では、身体症状として次のような項目が挙げられています。
- 1日1時間以上の安静が必要なほどの強い倦怠感・易疲労感が月7日以上
- 健常時に比べて10%以上の体重減少
- 月7日以上、2ヶ月を超えて続く38℃以上の発熱
- 1日3回以上の下痢が月7日以上
- 抗HIV療法による日常生活に支障が出る副作用
- 過去1年以内の日和見感染症の既往
症状はいくつ満たせば考慮されますか?
目安として、2〜4項目程度の症状が該当し、あわせて検査所見の基準も満たしている場合に、等級判断の材料として重視されます。
副作用による症状も対象になりますか?
対象になります。抗HIV療法は他の薬物治療と比べて副作用が大きいことが多く、治療を続けるために生じる日常生活・労働への支障も、正式に考慮の対象とされています。
治療で症状が改善すると、年金はどうなりますか?
治療によってCD4値やウイルス量が改善し、認定基準を満たさなくなった場合、更新時に等級が下がったり、支給が停止されたりすることがあります。抗HIV療法(多剤併用療法)の進歩により、CD4値が正常値近くまで回復するケースは少なくありません。
免疫機能が回復すること自体は喜ばしいことですが、その結果、以前は該当していた基準を満たさなくなり、更新のタイミングで支給停止となる方もいらっしゃいます。
支給停止になった場合、再度申請できますか?
できます。症状が悪化し、再び認定基準を満たす状態になれば、あらためて請求することができます。体調の変化があった際は、いつ、どのような症状が、どの程度続いたかを日頃からメモしておくと、再請求の際の記録として役立ちます。
副作用が続いている場合は考慮されますか?
考慮されます。検査数値が改善していても、抗HIV療法の副作用によって日常生活・労働に支障が続いている場合は、その状況も判断材料とされます。
よくある質問
Q. 病名を周囲に知られたくない場合はどうなりますか?
A. 通知には、申請者の病名や病状などの個人情報の保護に留意することが明記されています。事情により病名を明らかにできない場合でも、何らかの形でHIV感染症であると認められれば、その状態に応じて認定を行うとされています。
Q. 障害基礎年金と障害厚生年金、どちらが対象になりますか?
A. 初診日にどちらの年金制度に加入していたかで決まります。厚生年金加入中に初診日があれば3級を含む障害厚生年金の対象に、国民年金加入中であれば1級・2級のみの障害基礎年金の対象になります。
Q. 治療の副作用だけでも申請できますか?
A. できます。HIV感染症そのものによる障害だけでなく、抗HIV療法の副作用による労働・日常生活上の障害も、正式に認定の対象に含まれています。
Q. 視力障害や麻痺などの後遺症がある場合はどうなりますか?
A. HIV感染症やその続発症、または治療の結果として生じた視機能障害・四肢麻痺・精神神経障害などの不可逆的な障害は、原疾患であるHIV感染症とあわせて併合認定されます。
Q. 診断書はどの様式を使いますか?
A. 「血液・造血器・その他の障害用」の様式を使用し、HIV感染症特有の検査所見や身体症状、治療の副作用などを記載してもらいます。
Q. 障害年金はいくらもらえますか?
A. 障害基礎年金は1級が年額1,059,125円、2級が年額847,300円です(令和8年度、子の加算を除く)。障害厚生年金は加入期間や給与水準によって金額が変わるため、一律の金額でお答えすることはできません。
まとめ:HIV感染症と障害年金の申請ポイント
HIV感染症は、第18節の枠組みに加えて専用の留意事項が定められており、CD4値などの検査数値と、倦怠感・体重減少といった具体的な症状の両方から、日常生活・労働への支障の程度が総合的に判断されます。数値と症状のどちらか一方だけでは判断されないため、日頃の体調の記録が申請準備の土台になります。治療によって数値が改善することは喜ばしいことですが、その結果として支給が見直される可能性がある点も、あらかじめ知っておくとよいでしょう。
香川・岡山・愛媛で障害年金のご相談をお受けしていても、HIV感染症は検査数値と症状の記録の残し方によって結果が左右されやすい傷病だと感じています。特に、体調が落ち着いている時期に受診歴を整理しておくと、いざ申請を考えたときの準備がスムーズになります。気になる方は、診断書を依頼する前に、ご自身の症状や検査データがどのように評価されるのか、社労士に相談して整理してみるのもひとつの方法です。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
- ヒト免疫不全ウイルス感染症に係る障害認定について(平成10年2月4日庁保険発第1号通知)(厚生労働省)
- 障害年金の認定(ヒト免疫不全ウイルス感染症)に関する専門家会合 意見書(厚生労働省)
- 障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
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