ALS(筋萎縮性側索硬化症)をはじめとする進行性の神経難病は、診断を受けた時点ではまだ動ける部分が多くても、症状が比較的早く進んでいくという特徴があります。「もう少し落ち着いてから申請しよう」「まだ大丈夫だから」と先延ばしにしてしまうと、結果的に受け取れる年金額が大きく目減りしてしまうことがあります。この記事では、ALSなど進行性の神経難病の認定基準と、早めに申請を進めるべき理由、申請のポイントを整理します。
ALSなどの神経難病は「肢体の機能の障害」として認定されます
ALSは、手足や体を動かす指令を伝える運動神経細胞(運動ニューロン)が徐々に変性・消失し、筋力低下や筋萎縮が全身に広がっていく病気です。手足の動かしにくさだけでなく、進行すると言葉の発しにくさ(構音障害)や飲み込みにくさ(嚥下障害)、呼吸の障害にまで及ぶことがあります。障害年金では、手足や体幹に広く及ぶ機能障害は、「肢体の機能の障害」という基準で認定されます。
なぜ「肢体の機能の障害」で見るのか
肢体の障害は本来、「上肢の障害」「下肢の障害」「体幹・脊柱の機能の障害」「肢体の機能の障害」の4つに区分されています。このうち「肢体の機能の障害」は、脳血管障害や脊髄損傷、進行性筋ジストロフィーなど、障害が上肢と下肢にまたがって広範囲に及ぶ場合に用いられる区分です。ALSのように全身の筋力が低下していく病気は、片方の手足だけにとどまらず広範囲に障害が及ぶため、この「肢体の機能の障害」として総合的に判断されます。
関節可動域だけでなく「総合的」に判断されます
肢体の機能の障害の程度は、関節の動く範囲(関節可動域)、筋力、巧緻性(細かい動作のしやすさ)、動作の速さ、耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定する、とされています。一つの数値で機械的に決まるのではなく、食事・洗顔・着替え・歩行・立ち上がりといった具体的な動作が、どの程度自分でできるかが重視される仕組みです。
1級・2級・3級の目安と「程度」の考え方
肢体の機能の障害として、各等級に相当すると認められる状態が、次のように例示されています。
- 1級…一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの、または四肢の機能に相当程度の障害を残すもの
- 2級…一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの、または四肢に機能障害を残すもの
- 3級…一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの(障害厚生年金のみ)
ここで誤解しやすいのですが、これは「片方の手足だけに障害がある人」を指しているわけではありません。全身に障害が及んでいることを前提に、その重さの程度を表現したものです。それぞれの「程度」は、おおむね次のように定義されています。
- 「用を全く廃したもの」…日常生活の動作のすべてが「一人で全くできない」、またはこれに近い状態
- 「機能に相当程度の障害を残すもの」…動作の多くが「一人で全くできない」、またはほとんどが「一人でできるが非常に不自由」な状態
- 「機能障害を残すもの」…動作の一部が「一人で全くできない」、またはほとんどの動作が「一人でできてもやや不自由」な状態
なお、構音障害や嚥下障害、呼吸障害が現れている場合は、それぞれ別の障害(音声・言語機能の障害、呼吸器疾患による障害など)として評価され、肢体の障害とあわせて併合認定される可能性もあります。
なぜ「早めの申請」が重要なのか
ALSのような進行性の病気で特に重要なのが、申請のタイミングです。症状の進行スピードが速いからこそ、待つことがそのまま経済的な損失につながりやすいという事情があります。
「事後重症請求」では、さかのぼっての受給ができません
障害認定日の時点で等級に該当しなかった場合でも、その後症状が悪化すれば「事後重症請求」という方法で請求できます。しかし、事後重症請求は請求した翌月分からの支給となり、さかのぼって受け取ることはできません。「もう少し進行してから請求しよう」と先延ばしにすればするほど、本来受け取れたはずの年金を受け取れない期間が積み重なってしまいます。
人工呼吸器の装着で「障害認定日」が早まる特例があります

神経系統の障害については、現在の医学では根本的な治療方法がなく、今後の回復が期待できない疾病であって、初診日から6か月を経過した日以後に、気管切開下での人工呼吸器(レスピレーター)の使用や胃ろうなどの恒久的な措置が行われており、日常生活の用を弁ずることができない状態にあると認められるときは、その日が障害認定日として取り扱われる特例があります。つまり、通常の1年6か月を待たずに、6か月の時点で請求できる可能性があるということです。進行が早い病気だからこそ、この特例を知っておくかどうかで、受け取れる年金の総額に大きな差が出ます。
まだ症状が軽いので、もう少し様子を見てから申請しようと思っていました。
社労士進行性の病気は、待っている間にも状態が変わっていきます。早い段階から準備を始めることで、適切なタイミングで請求できるようになりますので、今のうちに一緒に整理しておきましょう。
申請の準備で押さえておきたいポイント
進行性の神経難病は、症状が変化し続けるという特性があるため、申請の準備にもそれに応じた工夫が必要です。

診断書は「現在の状態」を正確に反映してもらう
診断書を依頼するタイミングの状態が、そのまま審査の基準になります。診察時に調子が良い場面だけを見て「思ったより大丈夫そうですね」と判断されてしまわないよう、日によって変動する症状や、できなくなったことの具体的な内容を、診察前にメモなどで整理して伝えることが大切です。手足の動かしにくさだけでなく、言葉の出にくさや飲み込みづらさ、疲れやすさなど、生活全体への影響を漏れなく伝えましょう。
初診日の記録は早めに確保しておく
ALSは、手のしびれや脱力感など、当初は他の病気と見分けがつきにくい症状から始まることが多く、確定診断までに複数の医療機関を受診しているケースも少なくありません。障害年金の初診日は「その症状で初めて受診した日」ですので、診断が確定する前の受診歴も含めて、できるだけ早い段階で記録を整理しておくことをおすすめします。判断に迷う場合は、社労士などの専門家に早めに相談しておくと安心です。
将来の見直し(額改定請求)も視野に入れておく
進行性の病気では、申請時点で認定された等級が、その後の症状の悪化に伴って実態と合わなくなることがあります。受給を開始した後も、症状が進行した際には額改定請求によって等級の見直しを求めることができますので、現在の申請だけでなく、将来的な見直しの仕組みがあることもあわせて知っておくと安心です。
まとめ:進行性の病気だからこそ、早めの準備が安心につながります
ALSなど進行性の神経難病は、肢体の機能の障害として、関節可動域や筋力、巧緻性などを総合的に踏まえて認定されます。人工呼吸器の装着など一定の状態では、通常の1年6か月を待たずに6か月で障害認定日となる特例もあり、早く動くことがそのまま受給額の差につながります。事後重症請求はさかのぼっての受給ができないため、「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、症状の経過を記録しながら早めに準備を進めることが大切です。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
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