監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
派遣社員も、要件を満たせば国民年金法第30条・厚生年金保険法第47条に基づく障害年金の対象になります。
ポイントは、初診日の時点で派遣元の会社の厚生年金保険に加入していたかどうかで、加入していれば障害厚生年金の対象になります。
派遣契約と契約の間に空白期間がある場合は、その間だけ国民年金第1号被保険者に切り替わっていることがあり、初診日がどちらの制度に当たるかを慎重に確認する必要があります。
「正社員じゃないので、障害年金は難しいのでは」というご相談を、派遣社員として働く方からよくいただきます。結論からいうと、雇用形態そのものが障害年金の対象になるかどうかを左右することはありません。
ただ、派遣という働き方には、正社員とは違う独特の事情があります。契約が派遣会社との間で結ばれていること、契約と契約の間に空白期間が生じやすいことなどが、初診日の年金制度の確認をやや複雑にします。
この記事では、社会保険労務士の視点から、派遣社員が障害年金を申請する際に押さえておきたいポイントを整理します。契約社員やパートとして働いている方にも、考え方の多くが共通しますので、参考にしていただける内容です。ご自身の年金加入状況が分からないまま不安を抱えている方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
派遣社員も障害年金の対象になりますか?
対象になります。派遣社員かどうかという雇用形態は、障害年金の支給要件そのものには関係しません。
障害年金は、初診日の時点でどの年金制度に加入していたか、保険料をきちんと納めていたかなど、雇用形態ではなく加入実績によって支給の可否が決まります。正社員・派遣社員・契約社員・パートのいずれであっても、要件を満たせば障害基礎年金または障害厚生年金を受け取れます。
「派遣だから不利」という思い込みが申請を遠ざけることも
非正規雇用というだけで「自分は制度の対象外だろう」と考え、申請そのものを検討しない方が一定数いらっしゃいます。実際には、後述する条件を満たしていれば派遣社員も厚生年金に加入しているケースが多く、正社員と同じように障害厚生年金の対象になります。雇用形態を理由に相談をためらう必要はありません。
障害基礎年金・障害厚生年金どちらも対象
初診日に厚生年金保険に加入していなかった期間であれば国民年金法第30条に基づく障害基礎年金、加入していた期間であれば厚生年金保険法第47条に基づく障害厚生年金が支給の対象になります。
派遣社員の社会保険は、誰が加入手続きをしていますか?
派遣先の会社ではなく、派遣元の派遣会社が、社会保険の加入手続きを行います。
派遣社員にとっての雇用主は、実際に働く現場である派遣先ではなく、雇用契約を結んでいる派遣元の派遣会社です。厚生年金保険への加入要件を満たすかどうかの判定も、派遣先の会社の規模ではなく、派遣元の派遣会社を基準に行われます。給与明細や社会保険料の控除も、派遣先ではなく派遣元の名前で記載されているはずですので、確認する際は派遣元の会社名で探してみてください。
今の派遣先はすごく大きな会社なのですが、それでも社会保険に入れないことがあるのでしょうか。
社労士派遣先の会社の規模は関係ありません。加入の判定は、雇用契約を結んでいる派遣会社を基準に行われます。派遣会社にご自身の加入状況を確認してみましょう。
複数の派遣会社に登録している場合はそれぞれ判定される
複数の派遣会社に登録して掛け持ちで働いている場合は、それぞれの雇用契約ごとに加入要件を満たすかどうかが判定されます。一方の派遣会社では加入対象でも、もう一方では対象外、ということもあり得ます。
どんな条件を満たせば厚生年金に加入できますか?
正社員の4分の3以上の労働時間・日数で働いているか、それに満たない場合でも一定の条件を満たせば、厚生年金保険の被保険者になります。
厚生年金保険法第12条では、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、同一の派遣会社に使用される通常の労働者の4分の3以上である場合、厚生年金保険の被保険者になるとされています(4分の3基準)。
| 雇用形態 | 社会保険の加入判定単位 | 主な加入要件 |
|---|---|---|
| 正社員(直接雇用) | 勤務先の会社 | 通常はフルタイム勤務で加入 |
| 派遣社員 | 派遣元(派遣会社) | 4分の3基準、または特定適用事業所での4要件 |
| パート・アルバイト(直接雇用) | 勤務先の会社 | 4分の3基準、または特定適用事業所での4要件 |
4分の3未満でも加入対象になる4要件
4分の3基準を満たさない短時間の派遣社員でも、派遣元の会社が厚生年金保険の被保険者数51人以上の「特定適用事業所」にあたる場合、①週の所定労働時間が20時間以上、②所定内賃金が月額8.8万円以上、③学生でない、④継続して2か月を超える雇用の見込みがある、という4つの要件を満たせば、厚生年金保険の被保険者になります。派遣元の会社が51人未満の小規模な派遣会社である場合は、この4要件による加入は対象外となり、4分の3基準を満たすかどうかだけで判断されます。
賃金要件は令和8年10月に撤廃予定
日本年金機構の案内によれば、上記②の「月額8.8万円以上」という賃金要件は、令和8年10月(2026年10月)に撤廃される予定です。撤廃後は、週20時間以上働く短時間労働者であれば、賃金の金額にかかわらず加入対象になる見込みです。今後さらに対象が広がっていく制度だと理解しておくとよいでしょう。
派遣契約の合間に空白期間があると、どう影響しますか?

派遣契約が終了してから次の契約が始まるまでの空白期間は、厚生年金保険の被保険者資格がいったん失われることがあります。
登録型派遣では、一つの派遣先での契約が終わってから次の派遣先が決まるまで、数週間から数か月の空白期間が生じることがあります。この間は雇用契約そのものがない状態のため、厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、国民年金第1号被保険者として自分で保険料を納める必要があります。
空白期間中に初診日があると障害基礎年金の対象になる
もし空白期間中に初診日がある場合は、その時点で厚生年金保険に加入していないため、障害厚生年金ではなく障害基礎年金が支給の対象になります。障害基礎年金には3級がないため、同じ程度の障害でも受け取れる年金がないという結果になることもあります。
常用型派遣は空白期間が生じにくい
派遣会社の正社員として雇用され、複数の派遣先に順次派遣される「常用型派遣」の場合は、派遣先が変わっても派遣会社との雇用契約自体は続くため、契約の合間の空白期間は基本的に生じません。ご自身が登録型か常用型か、わからない場合は派遣会社に確認しておくとよいでしょう。契約書に「無期雇用派遣」と記載されていれば、常用型にあたることが多いです。
初診日の年金制度は、どうやって確認すればいいですか?

「ねんきんネット」や年金事務所への照会で、初診日当時にどの年金制度に加入していたかを確認できます。
短期の派遣を転々としていた期間がある方は、いつどの派遣会社の厚生年金に加入していて、いつ空白期間だったのか、ご自身の記憶だけでは正確に把握しきれないことがあります。年金加入履歴は「ねんきんネット」で確認できるほか、年金事務所の窓口でも照会できます。
給与明細やお薬手帳も手がかりになる
当時の給与明細に厚生年金保険料の控除があるかどうかも、加入状況を確認する手がかりになります。あわせて、症状で最初に受診した時期を特定するために、当時の通院記録やお薬手帳が残っていないかも確認しておきましょう。
派遣会社が変わっていても加入履歴は残っている
何社もの派遣会社を渡り歩いていても、厚生年金保険への加入履歴は基礎年金番号のもとに一括で管理されています。派遣会社ごとに個別に問い合わせなくても、ねんきんネットや年金事務所でまとめて確認できます。
よくある質問
Q. 登録型派遣と常用型派遣で、障害年金の扱いは違いますか?
A. 障害年金の支給要件そのものに違いはありません。ただし、常用型は空白期間が生じにくく、初診日の年金制度が確認しやすいという違いがあります。
Q. 複数の派遣会社に登録している場合、どちらの厚生年金が優先されますか?
A. 優先順位はなく、それぞれの雇用契約ごとに加入要件を満たしていれば、両方の派遣会社で厚生年金保険に加入することもあります。
Q. 短期の派遣を転々としていて、いつ厚生年金に入っていたか分かりません。どうすればいいですか?
A. ねんきんネットや年金事務所の窓口で、加入履歴をまとめて確認できます。ご自身の記憶だけに頼る必要はありません。
Q. 週20時間未満の派遣で働いています。国民年金だけになりますか?
A. 4分の3基準にも4要件にも該当しない場合は、厚生年金保険に加入せず、国民年金第1号被保険者(または配偶者の扶養に入っていれば第3号被保険者)として扱われます。
Q. 派遣契約が切れた直後に初診日がある場合はどうなりますか?
A. 契約が切れて厚生年金保険の被保険者資格を喪失した後であれば、その時点では国民年金第1号被保険者として扱われ、障害基礎年金が支給の対象になります。
Q. 契約社員やパートも、同じ考え方でいいですか?
A. 基本的な考え方は同じです。違いは、雇用主が派遣会社ではなく実際の勤務先になる点で、社会保険の加入判定はその勤務先を基準に行われます。
まとめ:派遣社員の障害年金は「初診日にどの契約下にあったか」がカギ
派遣社員も、雇用形態を理由に障害年金の対象から外れることはありません。国民年金法第30条・厚生年金保険法第47条の支給要件を満たしていれば、正社員と同じように障害基礎年金・障害厚生年金を受け取れます。
ただし、契約と契約の間に空白期間が生じやすいという派遣特有の事情があるため、初診日の時点でどの年金制度に加入していたかを、思い込みではなく記録で確認することが大切です。記憶があいまいなまま申請を進めてしまうと、後になって想定と違う年金額になり、驚かれる方も少なくありません。
当事務所は香川県観音寺市に事務所を構え、全国どこからのご相談にも対応していますので、ご自身の加入履歴の確認方法が分からない場合は、お気軽にご相談ください。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
・国民年金法 第30条(e-Gov法令検索)
・厚生年金保険法 第12条・第47条(e-Gov法令検索)
・短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大(日本年金機構)
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