監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法、厚生労働省・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
事後重症請求では、申請が受理された月の翌月分から年金の支給が始まるため(国民年金法第18条第1項)、申請が1ヶ月遅れると、その1ヶ月分の年金を受け取る権利が消滅します。
この損失は後から取り戻すことができないため、診断書・初診日証明・申立書の準備を並行して進め、1日でも早く年金事務所に書類を提出することが重要です。
ただし、障害認定日の時点ですでに障害等級に該当していた場合は「認定日請求」として最大5年分を遡って受給できる可能性があるため、まずは自分がどちらの請求方法に当てはまるかを確認することが最初のステップです。
障害年金の申請において、多くの方が「手続きはいつ行っても同じ結果になる」と誤解されがちですが、実は申請のタイミングがその後の受給状況に直接、かつ重大な影響を及ぼすケースがあります。特に「事後重症請求(じごじゅうしょうせいきゅう)」という方法で申請を行う場合、制度上のルールにより、申請が1ヶ月遅れるごとに、受け取れるはずだった1ヶ月分の年金が受給権ごと失われてしまいます。
これは、後からどれだけ遡ろうとしても、制度上決して取り戻すことができないものです。今回は、なぜ事後重症請求では1日も早い準備が推奨されるのか。その仕組みと、円滑に申請を進めるための実務的なポイントについて詳しく解説します。
事後重症請求と認定日請求は何が違うのですか?
認定日請求は障害認定日まで遡って最大5年分を受給できるのに対し、事後重症請求には遡るという概念が一切なく、請求した月の翌月分からしか支給されません。障害年金の申請には、大きく分けて「認定日請求」と「事後重症請求」の2種類があり、この違いを正しく理解することが不利益を避けるための第一歩です。

さかのぼりができない「今」の請求
「認定日請求」は、初診日から1年6ヶ月を経過した日(障害認定日、国民年金法第30条第1項)において、すでに障害等級に該当する状態であった場合の請求方法です。この場合は、申請が遅れても認定日まで最大5年分を遡って受け取ることができます。一方、今回取り上げる「事後重症請求」(国民年金法第30条の2)は、障害認定日の時点では症状が軽かったが、その後悪化して基準に該当するようになった場合や、認定日当時は病院を受診しておらず当時の診断書が作成できない場合に行われます。この請求の最大の特徴は、「過去に遡るという概念が一切ない」という点にあります。
| 認定日請求 | 事後重症請求 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 国民年金法第30条 | 国民年金法第30条の2 |
| 対象となる時点 | 初診日から1年6ヶ月後の障害認定日 | 請求時点(現在)の状態 |
| 受給できる範囲 | 認定日の翌月分から最大5年分を遡って受給可能 | 請求した月の翌月分から将来に向けて受給 |
| 請求できる期限 | 時効の範囲内であればいつでも | 65歳に達する日の前日まで |
支給開始は「申請した月の翌月」から
国民年金法第18条第1項では、年金給付の支給について「支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始める」と定められています。事後重症請求の場合、この「支給すべき事由が生じた日」は請求日そのものであるため、役所の窓口で書類が受理された「その日」が何月であるかによって、年金の受給開始月が確定します。3月31日に受理されれば4月分から支給されますが、わずか1日遅れて4月1日になると、支給は5月分からとなり、4月分の年金を受け取る権利は永久に失われます。
申請が1ヶ月遅れると、具体的にいくら損をするのですか?
令和8年度の障害基礎年金2級(月額70,608円)を例にすると、1ヶ月の遅れで70,608円、半年の遅れで約423,600円、1年の遅れで約847,300円が失われます。「1ヶ月くらいなら誤差の範囲内では?」と思われるかもしれませんが、具体的な金額に置き換えると、その重みが実感できるはずです。
具体的な金額シミュレーション
令和8年度の障害基礎年金2級の月額は70,608円です(厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」)。もし配偶者や中学生以下のお子様がいらっしゃれば、ここに加算がつきます。
| 遅れた期間 | 失われる金額(障害基礎年金2級の場合) |
|---|---|
| 1ヶ月 | 70,608円 |
| 半年(6ヶ月) | 約423,600円 |
| 1年(12ヶ月) | 約847,300円 |
もし厚生年金に加入していた期間の初診であれば、これに障害厚生年金が上乗せされるため、1ヶ月あたりの金額はさらに大きくなります。配偶者や中学生以下のお子様がいる場合の加算も含めると、遅れによる損失はさらに膨らみます。
これは「延期」ではなく「消滅」である
重要なのは、この数万円〜十数万円という金額は、後でまとめて支払われる「延期」ではなく、あなたの生涯受給額から確定的に差し引かれる「消滅」であるという点です。半年、1年と遅れが積み重なれば、その差は生活を左右する規模になります。事後重症請求において、時間はまさに「お金」そのものなのです。
なぜ事後重症請求の申請は遅れてしまうのですか?
診断書の作成に要する時間、初診日証明の難航、書類不備による窓口での差し戻し、ご本人の体調悪化という4つが、実務上の主なボトルネックです。「早く出さなければ」と分かっていても、現実には申請が数ヶ月単位で遅れてしまうケースが後を絶ちません。

1. 診断書の作成に要する時間
障害年金の要となる「診断書」は、医師に依頼してから手元に届くまでに、通常2週間から1ヶ月程度かかります。大きな病院や多忙な医師の場合、さらに時間がかかることも珍しくありません。「今月中に提出したい」と思っても、診断書が月末に届いたのでは、他の書類を整える時間がなく、月をまたいでしまうリスクが高まります。
2. 初診日証明(受診状況等証明書)の難航
障害年金のスタート地点である「初診日」を証明する書類がなかなか取れないケースです。特に転院を繰り返している場合や、最初の受診が数年前でカルテが廃棄されているような場合、調査だけで1ヶ月以上を費やすこともあります。
3. 書類不備による窓口での「差し戻し」
ようやく書き上げた書類を月末ギリギリに年金事務所へ持っていき、そこで記入漏れや添付書類の不足を指摘されて受理されない……。これは事後重症請求において最も避けたい事態です。持ち帰って修正し、再度足を運んだのが翌月の1日になってしまった瞬間、1ヶ月分の年金が消えてしまいます。
4. ご本人の体調悪化による停滞
障害年金を必要とする方は、そもそも心身に大きな負担を抱えています。ご自身で複雑な書類を作成しようとしても、体調が優れずに筆が止まり、気づけば数ヶ月が経っていたという例は非常に多く、専門家として最も心苦しく感じるケースの一つです。
診断書ができてから初診日の証明を取ろうと思っていたのですが、それだと遅いですか?
社労士その進め方だと、どうしても月をまたぎやすくなります。診断書の依頼、初診日証明の請求、申立書の作成は、できる限り同時並行で進めるのがおすすめです。1つずつ順番に進めると、それだけで1〜2ヶ月変わってくることがあります。
申請を今月中に確実に受理させるには、どうすればいいですか?
毎月20日を提出のデッドラインと考え、診断書・初診日証明・申立書の準備をすべて並行して進めることが、事後重症請求を成功させる鍵です。「スピード」と「正確性」の両立が求められます。

カレンダーの「20日」をデッドラインと考える
年金事務所への提出は、毎月「20日まで」を目標に進めることをお勧めします。そうすれば、万が一書類に不備が見つかり差し戻しになったとしても、残りの日数で修正して「同月内の再提出」が間に合う可能性が高くなるからです。
全ての書類を「並行」して準備する
「初診日の証明が取れてから、診断書を頼む」という進め方では時間がかかりすぎます。証明書の依頼、診断書の予約、ご自身の「病歴・就労状況等申立書」の作成。これらを並行して進めることで、準備期間を最短に圧縮できます。
社労士を「時間を買う」パートナーとして検討する
障害年金の専門家である社労士に依頼するメリットは、単に「手間が省ける」だけではありません。書類の不備をゼロにし、最短ルートで受理まで導く「スピード」こそが最大のメリットです。もし個人で悩んで3ヶ月遅れるのであれば、プロに任せて3ヶ月早く受給を開始した方が、結果的にご本人の手元に残る金額が多くなるケースも多々あります。
よくある質問
Q. 事後重症請求はいつまでに申請すればいいですか?
A. 65歳に達する日の前日までに請求する必要があります(国民年金法第30条の2第1項)。それ以降は請求できなくなるため注意が必要です。
Q. 診断書の有効期限はありますか?
A. 診断書は、原則として請求日からさかのぼって3ヶ月以内に作成されたものである必要があります。準備に時間がかかる場合は、診断書の作成日から逆算してスケジュールを組む必要があります。
Q. 申請を月末ギリギリに出すのは避けた方がいいですか?
A. はい。書類に不備があった場合、月をまたいで再提出になると1ヶ月分の受給権を失うため、20日前後を目安に余裕を持って提出することをおすすめします。
Q. 事後重症請求から認定日請求に変更することはできますか?
A. 原則として、請求後に遡って認定日請求に切り替えることはできません。申請前にどちらに該当するかを慎重に見極めることが重要です。
Q. 社労士に依頼すると、申請はどのくらい早くなりますか?
A. ケースによって異なりますが、書類の不備をなくし複数の準備を並行して進められるため、個人で進めるより早期に受理される可能性が高くなります。
まとめ:あなたの権利を、1枚の書類の遅れで減らさないために
障害年金は、受給者本人の生活を支えるための大切な権利です。事後重症請求は、待っていても事態が好転することはありません。制度上の冷徹なルールにより、提出が1ヶ月遅れれば、その分だけあなたの将来を支えるための貴重な原資が失われてしまいます。
「自分は今、申請できる状態なのだろうか?」「何から手をつければ最短で申請できるのか?」そう思われた時が、まさに動き出すべき瞬間です。香川・岡山・愛媛をはじめ中四国エリアで障害年金の申請を検討されている方は、まずはお早めにご自身の状況を整理することをお勧めします。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
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