監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・障害認定基準に基づき作成しています。
この記事の結論
社会的治癒とは、治療を受けずに普通の社会生活を送れていた期間が長くあれば、いったん治ったものとみなし、再発後に受診した日を新しい初診日として扱う考え方です。
空白期間の働き方や生活の様子を、厚生年金の加入記録や健康診断の結果とともに、病歴・就労状況等申立書で示しましょう。
ただし法令や障害認定基準に定めはなく、自動的には認められません。
「10年以上前に一度受診したことがあるから、今の厚生年金では申請できない」と思い込んでいませんか。過去の受診歴が初診日とされると、請求できる年金の種類が変わり、受給が難しくなるケースがあります。その後、長く普通に働けていた方ほど、知っておいていただきたい考え方があります。
この記事では、社会的治癒とは何か、認められるための条件と期間の目安、認められなかったときにどうなるかを、社労士の視点でお伝えします。
障害年金の「社会的治癒」とは何ですか?
社会的治癒とは、医学的に完治していなくても、治療を受けずに普通の社会生活を送れていた期間があれば、いったん治ったものとみなす考え方です。

原則は「初めて受診した日」が初診日
障害認定基準では、初診日を「障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と定めています。何年たっていても、同じ病気なら最初の受診日が初診日になるのが原則です。
社会的治癒は、この原則の例外
社会的治癒が認められると、以前の受診と再発後の受診は別の傷病として扱われ、再発後に初めて受診した日が新しい初診日になります。ただし、社会的治癒という言葉は法令にも障害認定基準にも書かれていません。審査の実務の中で用いられてきた考え方であり、請求する側から主張して初めて検討されます。
社会的治癒が認められるには、どんな条件が必要ですか?
治療の必要がなかったこと、症状が安定していたこと、普通の社会生活を送れていたことの3つを、客観的な記録で示す必要があります。
| 条件 | 見られるポイント | 示す記録の例 |
|---|---|---|
| 治療の必要がない | 通院も服薬もしていない | お薬手帳・健康保険の受診記録 |
| 症状が安定している | 自覚症状・他覚症状がない | 健康診断の結果 |
| 普通の社会生活 | 一般的な就労や家事ができていた | 厚生年金の加入記録・源泉徴収票 |
予防のための服薬が続いていると難しい
症状が落ち着いていても、再発を防ぐために薬を飲み続けていた場合は、治療が続いていたと見られやすくなります。自分の判断で通院をやめていた場合も、症状が安定していたことを別の記録で示すことが大切です。
空白期間の様子は申立書に具体的に書く
空白期間の様子は、病歴・就労状況等申立書に書きます。「元気だった」とだけ書くのではなく、「正社員として営業職を続け、健康診断でも異常はなかった」のように、仕事や生活の具体的な場面で書くと説得力が増します。
15年前に一度だけ心療内科に通いました。その後はずっと普通に働いていたのですが、昔の受診が初診日になってしまうんでしょうか?
社労士その後の働き方や通院の状況によっては、社会的治癒を主張できる可能性があります。空白期間の仕事の記録や健康診断の結果を、一緒に整理してみましょう。
ご自身のケースが当てはまるか、迷っていませんか
障害年金は、同じ傷病でも初診日や日常生活の状況によって結果が変わります。記事だけでは判断がつかない部分も多いので、気になる点があればお気軽にお声かけください。ご依頼前のご相談は無料です。
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社会的治癒に必要な期間は、何年くらいですか?
期間に法令上の決まりはなく、実務では、治療を受けずに普通に生活できていた期間がおおむね5年以上あるかが一つの目安になります。

5年たてば自動的に認められるわけではない
5年はあくまで目安で、期間の長さだけで決まるものではありません。空白期間中の働き方、症状の有無、病院に行かなかった理由などが、総合的に見られます。逆に、5年に満たなくても、その間の生活の様子によっては検討の余地があります。
期間を示す記録を集めておく
空白期間を示すには、ねんきんネットの加入記録、勤務先の在籍証明、毎年の健康診断の結果などが役立ちます。記憶だけに頼らず、年ごとに何をしていたかを書き出してみると、足りない記録が見えてきます。
社会的治癒が認められないと、どうなりますか?
社会的治癒が認められない場合は、原則どおり最初に受診した日が初診日として扱われます。
初診日で変わること
初診日がいつかで、請求できる年金の種類と保険料の納付要件が決まります。最初の受診が国民年金の加入中なら障害基礎年金(国民年金法第30条)、再発時が厚生年金の加入中なら障害厚生年金(厚生年金保険法第47条)の対象になり、3級があるかどうかも変わります。
両方の初診日で準備しておく
社会的治癒を主張するときは、認められなかった場合に備えて、最初の受診日でも請求の要件を満たせるかを確認しておくと安心です。最初の病院のカルテが残っているか、その時点の納付要件を満たしているかを、早めに調べておきましょう。
よくある質問
Q. 社会的治癒は、年金事務所が判断してくれますか?
A. 自動的には判断されません。請求する側が、社会的治癒を主張する理由と空白期間の記録を示す必要があります。何も書かずに提出すると、最初の受診日を初診日として審査されるため、申立書で主張を明らかにしておきましょう。
Q. うつ病などの精神疾患でも、社会的治癒は認められますか?
A. 精神疾患でも認められる可能性があります。服薬をやめて普通に働けていた期間があれば、主張の余地があります。ただし、再発を防ぐための服薬を続けていた場合は、治療が続いていたと見られやすいため、服薬の状況を正確に整理しておきましょう。
Q. 新しい初診日の証明は、どうすればいいですか?
A. 再発後に初めて受診した病院で、受診状況等証明書を書いてもらいます。新しい初診日が認められれば、その日を基準に納付要件や年金の種類が決まります。最初の受診先の記録も、あわせて手元に残しておくと安心です。
Q. 社会的治癒は、不利に働くこともありますか?
A. あります。初診日が後ろにずれるため、その時点で保険料の未納が多いと、納付要件を満たせなくなることがあります。社会的治癒を主張する前に、最初の受診日と再発後の受診日の両方で、有利な方を確かめておきましょう。
まとめ:過去の受診歴であきらめる前に、空白期間を整理しましょう
過去に受診歴があっても、その後長く治療を受けずに普通に生活できていたなら、社会的治癒を主張できる可能性があります。まずは、最初の受診から再発までの間に、どこで働き、健康診断で何を言われていたかを、年ごとに書き出すことから始めてみてください。
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参考資料
・国民年金法 第30条(e-Gov法令検索)
・厚生年金保険法 第47条(e-Gov法令検索)
・国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(日本年金機構)
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