監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金・厚生年金保険障害認定基準・精神の障害に係る等級判定ガイドライン・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
ナルコレプシーなどの睡眠障害は、障害認定基準上「神経症」に分類され、単独では原則として障害年金の対象になりません(国民年金・厚生年金保険障害認定基準第3第1章第8節)。
ただし、症状が精神病の病態を示している場合や、うつ病・双極性障害・統合失調症などを併発している場合は、これらの疾患に準じて認定される可能性があります。
診断名が「ナルコレプシー」のみのままだと不支給になりやすいため、日常生活への支障を精神症状も含めて診断書に具体的に記載してもらうことが重要です。
「ナルコレプシーで障害年金は無理だと言われた」——インターネットで調べると、そう感じてしまう情報に行き当たることがあります。実際、睡眠障害は認定基準上、原則として対象外に分類されているため、この情報自体は間違いではありません。学校や職場で「居眠り」「やる気がない」と誤解され、長年つらい思いをしてきた方にとって、この一言はさらに追い打ちをかけるものかもしれません。
ただし「原則対象外」は「絶対に無理」という意味ではありません。実際に、ナルコレプシーと他の精神疾患を併発して障害厚生年金を受給できた事例も報告されています。この記事では、睡眠障害がどのような扱いを受けるのか、どうすれば認定される可能性が出てくるのかを、社労士の視点から整理します。
睡眠障害・ナルコレプシーは、そもそも障害年金の対象になりますか?

ナルコレプシーを含む睡眠障害は、障害認定基準上「神経症」に分類され、単独の診断名では原則として障害年金の認定対象になりません。
これは、うつ病や統合失調症のような「精神病」とは異なる区分として扱われているためです。神経症は症状の訴えが本人の主観に大きく左右されやすいという性質があり、認定基準では原則として支給の対象から外れる扱いになっています(国民年金・厚生年金保険障害認定基準第3第1章第8節)。パニック障害や強迫性障害なども同じ神経症の枠組みに含まれるため、ナルコレプシーだけが特別に不利な扱いを受けているわけではありません。
「原則対象外」であって「全面禁止」ではありません
認定基準には例外規定があり、症状の内容が精神病の病態を示していると判断される場合は、統合失調症または気分(感情)障害の基準に準じて取り扱われます。ナルコレプシー特有の睡眠発作や情動脱力発作だけでなく、幻覚・妄想・気分の著しい波などが見られる場合は、この例外に該当する可能性が出てきます。
対象になりやすいケース・なりにくいケース
ナルコレプシーの診断名だけで、他の精神症状の記載がまったくない診断書は、不支給になりやすい典型的なパターンです。一方で、うつ病・双極性障害・統合失調症などを併発しており、その精神症状によって日常生活に著しい支障が出ている場合は、対象になる可能性が十分にあります。就労の継続が難しくなっている、対人関係で著しい困難が生じているといった具体的な生活への影響も、あわせて確認しておきたいポイントです。
| 対象になりにくいケース | 対象になりやすいケース | |
|---|---|---|
| 診断名 | ナルコレプシーのみ | ナルコレプシー+うつ病・双極性障害・統合失調症等 |
| 診断書の記載内容 | 睡眠発作・脱力発作のみ | 幻覚・妄想・気分の波など精神病態の記載あり |
| 取り扱いの基準 | 神経症として原則対象外 | 統合失調症・気分障害に準じて認定 |
ナルコレプシーと他の精神疾患を併発している場合、認定されやすくなりますか?
併発している精神疾患の症状が日常生活にどれだけ支障をきたしているかが、認定の可否を左右する最も重要なポイントです。
ナルコレプシーは、双極性障害・抑うつ障害・不安症・統合失調症などを伴うことがあると医学的に指摘されています。実際に、ナルコレプシーから統合失調症を併発して障害厚生年金2級を受給できた事例や、うつ病を併発して認定された事例が公的に報告されています。いずれのケースでも、睡眠発作や脱力発作といったナルコレプシー特有の症状だけでなく、幻覚・妄想・気分の波といった精神病の病態が診断書に具体的に記載されていた点が共通しています。
診断名が途中で変わった場合の考え方
最初はナルコレプシーだけと診断されていても、通院を続けるうちにうつ病や双極性障害の診断が追加されることは珍しくありません。診断名が変わったり追加されたりした場合は、それらの傷病との関連を含めて、あらためて申請の可能性を検討する価値があります。
ナルコレプシーだけだと無理だと聞いたのですが、うつ病も併発している場合はどうなるのでしょうか?
社労士ナルコレプシー単体では原則対象外ですが、うつ病などの精神症状を伴っていて、日常生活に著しい支障が出ているのであれば、その精神疾患の基準に準じて認定される可能性があります。あきらめる前に、今の症状を整理してみましょう。
診断書には、どんなことを書いてもらう必要がありますか?

睡眠発作や脱力発作の症状だけでなく、幻覚・妄想・気分の波といった精神病の病態、そしてそれが日常生活に与えている具体的な支障を診断書に書いてもらうことが重要です。
主治医に伝えたい具体的な内容
日中に何度も強い眠気に襲われて仕事や家事が続けられない、気分の浮き沈みが激しく感情のコントロールが難しい、幻覚や幻聴のような症状がある、といった具体的なエピソードを伝えることが大切です。「眠くて大変」という訴えだけでは、神経症の範囲にとどまっていると判断されやすくなります。診察の限られた時間で伝えきれないことも多いため、日々の困りごとをメモに残しておき、診察時に主治医へ見せる方法も有効です。
受診状況等証明書の傷病名について
初診時の受診状況等証明書で診断名が確定しておらず「てんかんの疑い」「ナルコレプシーの疑い」などと記載されているケースもあります。確定診断でなくても、その後の診断書に記載される傷病名と因果関係が認められれば、同一の傷病として扱われることがあります。
障害年金の等級は、どのように判断されますか?
ナルコレプシーに伴う精神症状が認定対象になった場合は、精神の障害に係る等級判定ガイドラインに沿って、日常生活能力の程度と判定を組み合わせて等級の目安が決まります。
このガイドラインは、精神障害・知的障害の認定における地域差をなくすために2016年に策定されたものです。診断書の「日常生活能力の程度」(5段階)と「日常生活能力の判定」(4段階項目の平均値)を組み合わせて等級の目安が示されますが、あくまで目安であり、最終的には総合的に判断されます。等級そのものの根拠は国民年金法施行令別表・厚生年金保険法施行令別表にありますが、精神の障害についてはこのガイドラインが実務上の判断材料として広く使われています。
1級になることは考えにくい理由
精神疾患は原則として2級・3級が中心で、1級に該当するのは重度の知的障害や重篤なてんかんなど、限られた例外的なケースです。ナルコレプシーに伴う精神症状のケースも、多くは2級または3級での認定になると考えられます。
子どもの頃に発症した場合、初診日はどう考えればいいですか?
ナルコレプシーは中学生・高校生の時期に発症するケースが少なくないため、20歳前に初診日がある「20歳前傷病」に該当する可能性があります。
20歳前傷病に該当する場合、初診日に年金制度へ加入している必要がなく、保険料納付要件も問われません。授業中に突然眠り込む、感情が高ぶると脱力するといった症状で「居眠り」「怠け」と誤解されたまま長期間気づかれずにいたケースもあるため、当時の記録(保健室の利用記録、通知表の記載、部活動の顧問や担任からの申し送りなど)が初診日の裏付けに役立つことがあります。ただし20歳前傷病による障害基礎年金には所得制限があるため、この点もあわせて確認しておくと安心です。
よくある質問
Q. 睡眠時無呼吸症候群でも同じ扱いになりますか?
A. 睡眠時無呼吸症候群も睡眠障害の一種として、基本的な考え方は共通します。ただし合併症として心不全や呼吸不全などの身体的な障害が生じている場合は、その身体疾患としての認定基準で判断される場合があります。
Q. 一度不支給になった場合、再申請はできますか?
A. 再申請は可能です。不支給になった際の診断書の記載内容を確認し、精神症状の記載が不足していないか、その後症状が悪化していないかを整理したうえで、事後重症請求として再度申請することができます。前回の申請から症状に変化がない場合でも、診断書の書き方次第で結果が変わることもあるため、一度内容を見直す価値があります。
Q. 精神障害者保健福祉手帳を持っていないと申請できませんか?
A. 手帳を持っていなくても障害年金は申請できます。手帳と年金は別の制度で、審査の基準や必要書類も異なります。
Q. 会社員として働きながらでも申請できますか?
A. 働いていること自体が申請の妨げになるわけではありません。ただし、就労状況が審査の際の判断材料の一つになるため、業務中にどのような症状が出て、どのような配慮を受けているかを具体的に伝えることが大切です。時短勤務や配置転換など、職場側の対応の有無も参考にされます。
Q. 自分のケースが対象になるか、事前に相談できますか?
A. ご相談いただけます。ナルコレプシー単体か、他の精神疾患を併発しているかによって見通しが大きく変わるため、現在の症状や通院状況をうかがったうえで、認定の可能性を一緒に整理していきます。
まとめ:併発疾患の症状を具体的に伝えることが鍵
ナルコレプシーなどの睡眠障害は、障害認定基準上「神経症」に分類され、単独では原則として障害年金の対象になりません。しかし、精神病の病態を示している場合や、うつ病・双極性障害・統合失調症などを併発している場合は、これらの疾患に準じて認定される可能性があります。診断名がナルコレプシーのみのままにならないよう、日常生活への支障を精神症状も含めて具体的に診断書へ反映してもらうことが重要です。20歳前に発症しているケースも多いため、初診日の考え方もあわせて確認しておきましょう。
「ナルコレプシーだから無理」と最初からあきらめる前に、現在の症状を丁寧に整理し、対象になる可能性がないか確認してみることをおすすめします。香川県観音寺市に事務所を構え、全国どこからのご相談にも対応しています。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
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