「不整脈がひどくて、以前のようには働けなくなった」「心臓弁膜症の手術を受けたけれど、この先の生活が心配」。心臓の病気を抱える方から、こうしたご相談をいただくことが増えています。心臓の病気は、外から見えにくいぶん、周囲に理解してもらいづらいという悩みを抱えている方も少なくありません。結論から言うと、不整脈や心臓弁膜症は障害年金の対象になり得る傷病であり、とくに人工弁やペースメーカーを装着した場合は、手術・装着をした日から申請できる特例があります。この記事では、心疾患の認定基準の考え方と、申請に向けて準備しておきたいことを、障害年金を専門とする社労士が解説します。
不整脈・心臓弁膜症は「心疾患」として7つに区分される
障害年金の認定基準では、心臓や血管の病気をまとめて「心疾患」として扱い、そのなかでいくつかの区分に分けています。
心疾患の認定基準における7つの区分
心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患、重症心不全の7つに区分されています。心臓弁膜症は「弁疾患」に、不整脈のうち治療の難しいものは「難治性不整脈」に、それぞれ該当します。区分によって重視される検査項目や経過観察の考え方は異なりますが、どの区分であっても、最終的には心臓のポンプ機能がどの程度損なわれているか(慢性心不全としての状態)を踏まえて評価されるのが特徴です。なお、心臓移植や人工心臓を装着した場合は原則1級、CRT(心臓再同期療法)やCRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)の場合は原則2級と、重症心不全の区分にはさらに具体的な基準も設けられています。
認定は臨床症状・検査所見・日常生活の状況を総合的に見て判断される
等級の判定にあたっては、呼吸困難や動悸、むくみといった自覚症状・他覚所見に加えて、心電図や心エコー、胸部X線などの検査成績、そして日常生活や労働にどの程度制限が出ているかを総合的に見て判断されます。「診断名」だけで等級が自動的に決まるわけではなく、日々の生活の中でどれだけ支障が出ているかを、診断書や病歴・就労状況等申立書にきちんと反映できるかが重要になります。
人工弁・ペースメーカーを装着した場合の特例
心臓弁膜症や重い不整脈の治療として、人工弁の手術やペースメーカーの装着を行った方には、知っておきたい特例があります。

装着した日が「障害認定日」になる
通常、障害年金は初診日から1年6か月が経過した日(障害認定日)にならないと申請できません。しかし、心臓ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)、人工弁を装着した場合は、その装着日(初診日から1年6か月以内の場合に限ります)が障害認定日となる特例があります。これにより、装着してすぐに申請の手続きに進むことが可能です。過去に装着していて申請をしていなかった場合も、この特例を使って遡って請求できることがあります。
人工弁装着は原則3級(複数装着でも変わらない)
人工弁(機械弁・生体弁)を装着した場合、原則として障害厚生年金3級に認定されます。複数の弁を人工弁に置き換えていても、原則として3級のままで、装着した弁の数に応じて等級が上がるわけではありません。術後の経過が思わしくなく、臨床所見や検査所見が悪い状態が続く場合には、2級以上に認定されることもあります。なお、3級は障害厚生年金にのみ設けられている等級のため、初診日に国民年金(自営業・専業主婦など)にしか加入していなかった場合は、人工弁を装着していても、2級以上に該当しない限り障害年金は支給されません。
人工弁の手術を受けたのですが、普通に働けているので障害年金は関係ないと思っていました…。
社労士人工弁を装着した場合、就労の有無や収入にかかわらず、原則として障害厚生年金3級の対象になります。「働けているから関係ない」とは限りませんので、一度確認してみることをおすすめします。
申請の準備で押さえておきたいポイント
実際に申請を進めるにあたって、事前に整理しておきたいことをまとめました。

初診日にどの年金制度に加入していたかが重要
不整脈や心臓弁膜症は、健康診断で心雑音や心電図の異常を指摘されてから何年も経ってようやく症状が進行する、というケースも珍しくありません。そのため、いつ・どこで初めて指摘されたのか(初診日)を、当時の記録をもとに特定する作業が欠かせません。初診日が厚生年金加入中であれば3級から対象になりますが、初診日が国民年金(自営業・専業主婦・学生など)加入中であれば、障害基礎年金には3級がないため2級以上に該当する必要があります。同じ人工弁の装着であっても、初診日がいつだったかによって結果が大きく変わってくるため、この確認が申請の出発点になります。
検査データ・症状の記録を早めに整理しておく
心電図や心エコーの検査結果、手術記録、そして日常生活で感じている息切れや疲れやすさといった自覚症状は、時間が経つほど記憶があいまいになりがちです。通院のたびに調子の変化をメモしておく、検査結果の控えを保管しておくといった積み重ねが、いざ申請するときの診断書や申立書の精度を高めることにつながります。
初診日がいつだったか、正直あいまいで自信がありません…。
社労士健康診断の結果通知や、当時のお薬手帳、紹介状の控えなどが手がかりになることもあります。一つずつ一緒に確認していきましょう。
不整脈・心臓弁膜症の障害年金に関するよくある質問
Q. 手術をしていない不整脈でも障害年金の対象になりますか?
対象になり得ます。ペースメーカーやICDの装着といった特例が使えるのは手術・装着を行った場合ですが、手術をしていない不整脈であっても、「難治性不整脈」として、通常どおり初診日から1年6か月経過した日を障害認定日として、症状や検査所見をもとに等級が判断されます。動悸や息切れ、めまいなどの自覚症状が続き、薬物療法を続けても十分にコントロールできない状態であれば、一度確認してみる価値があります。
Q. 人工弁を装着した後、普通に働いていても受給できますか?
受給できる可能性があります。人工弁の装着による3級認定は、就労の有無や収入にかかわらず認められる特例です。実際に、術後の経過が良好で仕事を続けながら受給している方も少なくありません。「働けているから対象外」と自己判断せず、まずは初診日を確認するところから始めてみましょう。
まとめ:人工弁・ペースメーカーの装着は、申請のタイミングを逃さないことが大切です
不整脈・心臓弁膜症は、心疾患の認定基準にもとづき、臨床症状・検査所見・日常生活の状況を総合的に見て等級が判断されます。人工弁やペースメーカーを装着した場合は、装着日から申請できる特例があり、人工弁装着は原則3級(障害厚生年金のみ)として扱われます。初診日の年金制度によって結果が変わるからこそ、早めに記録を整理し、申請のタイミングを逃さないようにしましょう。「自分のケースはどうなるのか分からない」という段階でも構いませんので、来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
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