心疾患の治療においてペースメーカーやICD(植込み型除細動器)を装着することは、日常生活を取り戻すための大きな一歩です。
しかし、それと同時に
「これから以前と同じように働けるだろうか」
「医療費や生活費の負担をどう支えればいいのか」
といった不安を抱える方も少なくありません。
公的な支援制度の一つである「障害年金」において、ペースメーカーやICDの装着は原則として「障害等級3級」に該当すると定められています。
つまり、受給要件を満たしていれば、生活を支えるための年金を受け取れる可能性が非常に高いのです。
ただし、申請にあたっては「初診日」の特定や保険料の納付要件など、いくつか注意すべきハードルが存在します。
本記事では、ペースメーカー・ICDを装着された方が障害年金を確実に受給するためのポイントを、専門的な視点から分かりやすく解説します。
ペースメーカー・ICD装着における障害年金の認定基準
ペースメーカーやICDを装着した場合、障害年金制度ではどのように評価されるのでしょうか。
まずは基本となる認定基準について確認しましょう。
原則として「3級」に認定される

日本の障害年金制度(認定基準)では、心疾患によりペースメーカー、ICD、または人工弁を装着した場合は、それだけで「障害等級3級」に該当すると明記されています。
これは、装着すること自体が、身体機能に一定の制限があることの証明と見なされるためです。
装着した日が「障害認定日」になる特例がある
通常、障害年金を申請できるのは初診日から1年6ヶ月が経過した後ですが、ペースメーカーやICDを装着した場合は「特例」が認められています。
手術をして装着した日が「障害認定日(障害の状態を定める日)」と見なされるため、1年6ヶ月を待つことなく、装着したその日からすぐに申請準備を進めることが可能です。
これにより、早期に経済的なサポートを受けられる大きなメリットがあります。
CRT-Dの装着や重い症状がある場合は「2級」の可能性も
原則は3級ですが、特定の機器を装着した場合は、初めから「2級」として認定されるケースがあります。
具体的には、重症の心不全治療に用いられる両心室ペーシング電極(CRT)や、除細動機能が付いた両心室ペーシング電極(CRT-D)を装着した場合です。
これらの機器は、通常のペースメーカー等では改善が難しいほど心機能が低下している方に適用されるため、その重篤さが評価され、原則として「2級」に認定されます。
また、機器の種類に関わらず、装着後も
「安静にしていても息苦しい」
「日常生活の範囲内ですら強い疲労感や動悸がある」
といった状態が続く場合も、1級や2級に認定される可能性があります。
審査では、心機能を示す数値(射出率やBNP値)に加え、就労や生活の制限度合いを示す「一般状態区分表」の内容が総合的に判断されます。
受給できる年金の種類に注意
ここで重要なのが、初診日に加入していた年金制度です。
3級という等級は「障害厚生年金」にしかない等級です。
もし初診日に自営業や学生、専業主婦などで「国民年金」に加入していた場合(障害基礎年金)、等級は1級または2級までしかありません。
つまり、国民年金加入者の場合は、装着後に「日常生活が極めて困難な状態」でなければ受給に至らない可能性があるという点に注意が必要です。
受給の鍵を握る「初診日」の重要性と注意点

障害年金の申請において、最も重要であり、かつトラブルになりやすいのが「初診日」です。
ペースメーカー装着に至るまでには長い経過があることが多いため、慎重な確認が求められます。
初診日とはどの時点を指すのか
障害年金における初診日とは、「ペースメーカーの植込み手術をした日」ではありません。
「心疾患の症状のために、初めて医師の診察を受けた日」を指します。
例えば、健康診断で心電図の異常を指摘されて再検査を受けた日や、動悸がして近所のクリニックを受診した日が初診日となります。
この初診日が10年前、20年前というケースも珍しくありません。
初診日の証明ができない場合の対策
初診日が古い場合、当時の病院が廃院になっていたり、カルテの保存期間(5年)が過ぎていたりして、初診日の証明(受診状況等証明書)が取れないことがあります。
しかし、証明が取れないからといって諦める必要はありません。
診察券、お薬手帳、当時の領収書、あるいは当時の状況を知る第三者の証言などを積み上げることで、初診日を認めてもらえる可能性があります。
保険料納付要件のチェック
初診日が特定できたら、その前日において、一定以上の年金保険料を納めているか(納付要件)を確認しなければなりません。
「初診日のある月の前々月までの加入期間のうち、3分の2以上が納付・免除されていること」または「直近1年間に未納がないこと」が条件です。
ペースメーカーを装着していても、この納付要件を満たしていないと、残念ながら1円も受給することができません。
診断書作成と「申立書」のポイント
要件を満たしていることが確認できたら、書類の作成に移ります。
医学的な証明と、自身の生活実態の整合性が重要です。
医師に正しく状態を伝えて診断書を依頼する
診断書は、年金機構が受給の可否を判断する最大の根拠となります。
ペースメーカー装着の事実はもちろんですが、それ以外の自覚症状(疲れやすさ、胸の痛み、めまいなど)や、就労における制限についても正確に記載してもらう必要があります。
診察時間は短いため、あらかじめ「日常生活で困っていること」をメモにまとめて主治医に渡すのも一つの有効な手段です。
病歴・就労状況等申立書で実態を補足する
「病歴・就労状況等申立書」は、発症から現在までの経過を自分で記述する書類です。
診断書では伝えきれない
「坂道や階段がつらくて歩けない」
「仕事中に何度も休憩が必要である」
「同僚のサポートなしでは業務が遂行できない」
といった具体的な苦労を記載します。
診断書の内容と矛盾がないように注意しつつ、客観的な事実に基づいて記述することが大切です。
よくある質問と落とし穴
ペースメーカー・ICDの申請で、多くの方が迷われるポイントをまとめました。
働きながらでも受給できるのか
結論から言うと、働きながらでも障害年金を受給することは可能です。
特にペースメーカー等の装着で3級を申請する場合、就労していることは不支給の直接的な理由にはなりません。
ただし、職場からどのような配慮(時差出勤、重労働の免除、休憩時間の延長など)を受けているかは、審査において考慮されるポイントになります。
再置換(電池交換)の手術をした場合は?
すでにペースメーカーを装着しており、数年後に電池交換のために再手術を行った場合、それが新たな「障害認定日」になるわけではありません。
あくまで最初の装着時や初診日の基準に従います。
ただし、再置換のタイミングで心機能がさらに悪化しているような場合は、等級の見直し(額改定請求)を検討する余地があります。
まとめ

ペースメーカーやICDを装着された方は、障害年金3級を受給できる可能性が非常に高いといえます。
しかし、初診日の特定が困難であったり、国民年金加入中の初診で2級以上のハードルに直面したりと、個人で進めるには複雑なケースも少なくありません。
障害年金は、正当な権利です。
制度を正しく理解し、適切な準備を行うことで、将来の経済的な不安を軽減し、治療やリハビリに専念できる環境を整えることができます。
「自分の場合はどうなるのか」と少しでも不安を感じたら、まずは専門家へ相談してみることをお勧めします。
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