監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は厚生年金保険法・厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」・日本年金機構の公表資料に基づき作成しています。
この記事の結論
ADHDは、日常生活と労働への支障の程度に応じて1級から3級のいずれかに認定される可能性があります(厚生年金保険法第47条第2項)。
等級の判定は、日本年金機構の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に沿って、日常生活能力と労働状況を総合的に評価して行われます。
知的障害を伴う場合は、初診日が20歳前の受診歴まで遡って扱われることが多く、結果的に3級ではなく1級・2級(障害基礎年金)の範囲で判断されるケースが目立ちます。
「ADHDと診断されているけれど、自分はどのくらいの等級になるのか見当がつかない」というご相談を、当センターではよく伺います。
発達障害は、うつ病や統合失調症などと同じ「精神の障害」の枠組みで審査されますが、日常生活の状況だけでなく、働く場面でどの程度の支障が出ているかも重要な判断材料になります。また、知的障害を伴うかどうかによって、初診日の扱いや対象となる等級の範囲が変わってくるケースが多い点も見落とされがちです。
この記事では、ADHDで障害年金を検討する際に押さえておきたい等級判定の目安を、社労士の視点から整理します。
ADHDは障害年金の何級に認定されますか?
日常生活能力の程度と労働への支障の大きさによって、1級から3級のいずれかに認定される可能性があります。病名そのものではなく、実際の生活・就労の困難さがどの程度かが評価の中心になります。

「日常生活能力」と「労働への支障」の総合評価
日本年金機構の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、日常生活能力の判定と程度を組み合わせて等級の目安を示しています。ADHDの場合、忘れ物や遅刻が多い、優先順位をつけて作業を進められない、対人関係でトラブルが生じやすいといった具体的なエピソードが、日常生活能力の評価に反映されます。
3級は厚生年金加入者だけの選択肢です
3級は障害厚生年金だけに設けられた等級です(厚生年金保険法第47条第2項)。初診日に国民年金にしか加入していなかった方(自営業・専業主婦・学生等)は、1級または2級に該当しない限り、障害年金そのものの対象になりません。
| 1級 | 2級 | 3級 | |
|---|---|---|---|
| 状態の目安 | 日常生活の全般に常時援助が必要 | 日常生活に著しい制限がある | 労働に著しい制限があるが、日常生活はおおむね可能 |
| 対象となる年金制度 | 国民年金・厚生年金いずれも対象 | 国民年金・厚生年金いずれも対象 | 厚生年金加入者のみ |
| 知的障害を伴う場合 | 対象 | 対象 | 該当しないケースが多い |
ADHDに知的障害を伴う場合、等級の判定は変わりますか?
知的障害を伴う場合は、初診日が20歳前まで遡って扱われることが多く、結果として3級ではなく1級・2級で判断されるケースが目立ちます。
なぜこのようなケースが多いのですか?
療育手帳の交付を受けている場合、その手帳を取得するための検査・受診がすでに行われていることになります。知的障害と発達障害は切り離せない関係にあることが多いため、認定基準上「相当因果関係がある傷病は、最初に受診した傷病の初診日を対象傷病の初診日とする」という考え方に基づき、より早い時点である知的障害の受診日(多くの場合20歳前)が優先される傾向があります。ただし、知的障害があれば必ずそうなるというわけではなく、実際の受診歴によってケースごとに判断されます。
ADHD単独の場合との違い
知的障害の診断や療育手帳がなく、ADHDの症状で初めて医療機関を受診した日が明確な場合は、その受診日が初診日となる通常のルールが適用されます。その受診日に厚生年金保険へ加入していれば、3級の対象にもなり得ます。知的障害の受診歴の有無が、初診日の扱いを左右する分かれ目になります。
大人になってから診断されたADHDでも、障害年金の対象になりますか?
対象になります。ただし初診日の特定には、幼少期の状況も手がかりとして考慮されます。

幼少期の様子や教育歴が判断材料になる
等級判定ガイドラインでは、青年期以降に判明した発達障害について、幼少期の状況や特別支援教育(またはそれに相当する支援)を受けていたかどうかを考慮すると示されています。子供の頃に診断名がついていなくても、当時の通知表や周囲の証言が、状態を裏付ける材料になることがあります。
子供の頃は診断されていませんでしたが、大人になってからADHDと言われました。今からでも障害年金は申請できますか?
社労士はい、対象になります。大人になって初めて発達障害が判明した場合でも、子供の頃の様子や学校での支援状況などが、初診日を特定する手がかりとして考慮されます。まずは実際に医療機関を受診した日を確認するところから始めましょう。
ADHDにうつ病などの二次障害が伴う場合、認定はどう変わりますか?
二次障害を含めて総合的に評価され、ADHD単独のときより上位の等級につながることがあります。
「精神障害」「発達障害」の区分にとらわれない評価
等級判定ガイドラインでは、精神障害・知的障害・発達障害という区分にとらわれず、それぞれの分野で考慮すべき要素のうち該当・類似するものを踏まえて評価するとされています。ADHDによる困難さに加えて、うつ病などの二次障害による生活への影響が診断書に反映されれば、それも等級判定の材料になります。
働きながらでも、ADHDで認定されることはありますか?
あります。フルタイムで勤務していても、職場の配慮や困難さの実態が診断書に反映されれば、認定の対象になります。
「働けている」ことだけでは判断されません
業務内容を単純化してもらっている、上司や同僚のサポートで何とか業務をこなしている、頻繁なミスや欠勤があるといった実態は、労働に制限があることの根拠になります。就労の有無だけでなく、その働き方の中身を具体的に伝えることが重要です。
よくある質問
Q. ADHDの診断書は、どの精神科でも作成してもらえますか?
A. 作成可能です。ただし、幼少期の状況や日常生活・就労の具体的な困難さを詳しく伝えられる医師に依頼することが、実態に即した診断書につながります。
Q. ADHDの初診日は、いつになりますか?
A. 発達障害の症状で初めて医療機関を受診した日が初診日となるのが原則です。ただし療育手帳を持っている(知的障害の受診歴がある)場合は、より早い時点であるその受診日が優先される傾向があります。
Q. 発達障害の更新(再認定)で、等級が変わることはありますか?
A. あります。更新時の診断書の内容によって、上位等級への変更・下位等級への変更のいずれも起こり得ます。日常生活や就労の状況を、その時点の実態に沿って正確に伝えることが大切です。
Q. ADHDと自閉スペクトラム症を両方持っている場合は、どうなりますか?
A. どちらも「発達障害」として同じ認定基準の枠組みで評価されます。両方の特性による困難さをあわせて診断書に反映してもらうことが可能です。
Q. ADHDの障害年金は、遡って請求できますか?
A. 可能です。ただし障害認定日から5年を超える部分は時効により受け取れないため、初診日と認定日の特定を早めに進めることをおすすめします。
まとめ:ADHDの等級は「生活と労働の実態」で判断される
ADHDによる障害年金の等級は、診断名そのものではなく、日常生活能力と労働への支障の程度を総合的に評価して判断されます。知的障害を伴う場合は初診日が20歳前まで遡って扱われることが多く、結果的に1級・2級の範囲で判断されるケースが目立つ点、3級はそもそも厚生年金加入者だけの選択肢である点は、あらかじめ知っておくと見通しが立てやすくなります。
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参考資料
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