監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(第11節 心疾患による障害)に基づき作成しています。
この記事の結論
慢性心不全の等級は、NYHA心機能分類などで表される心不全症状の重さと、日常生活の制限度を示す「一般状態区分表」、BNP値や左室駆出率(EF値)などの検査数値を組み合わせて総合的に判定されます(障害認定基準 第11節)。
検査数値が基準に届かない場合でも、臨床所見や治療経過を総合的に判断してもらえる仕組みがあるため、数値だけで諦める必要はありません。
安静時の検査数値に異常が出にくいタイプの心不全では、「苦しくて歩けない」という日常生活の実態を具体的なエピソードとして医師に伝えることが、認定を左右する鍵になります。
「少し歩くだけで動悸がする」「夜、横になると苦しくて眠れない」。心不全は、目に見える身体の欠損とは異なり、その苦しみが周囲や審査側に伝わりにくい疾患です。障害年金の審査において、単に「苦しい」と訴えるだけでは十分ではありません。
重要なのは、その「苦しさ」が医学的にどのような数値で表され、日常生活にどう影響しているかを論理的に証明することです。本記事では、慢性心不全で障害年金を受給するための認定基準と、実態を裏付けるための具体的なポイントを専門家の視点で解説します。
慢性心不全は、障害年金の何級に認定されますか?
安静時にも心不全症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)があり日常生活のほぼすべてに介助が必要な状態は1級、日中の半分以上を起居・就床して過ごす状態は2級、労働に制限が必要な状態は3級が目安になります。心疾患による障害年金の認定は、「心機能の低下」と「日常生活の制限」の2軸で判断されます。

1級・2級・3級の基本的な判定目安
心疾患は弁疾患・心筋疾患・虚血性心疾患・難治性不整脈・大動脈疾患・先天性心疾患に区分されており、それぞれ細かな基準が異なりますが、最終的には心臓機能が慢性的に障害された「慢性心不全」の状態を評価することになります。心筋疾患を例にすると、1級は安静時にもNYHA心機能分類クラスⅣの心不全症状があり一般状態区分表の「オ」に該当するもの、2級は検査所見に加えて病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり一般状態区分表の「ウ」または「エ」に該当するもの、3級はEF値50%以下かつ臨床所見が2つ以上あり一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当するものが目安です。
| 等級 | 心不全症状の目安 | 一般状態区分 | 病状をあらわす臨床所見 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 安静時にもNYHA心機能分類クラスⅣ | オ | – |
| 2級 | EF値40%以下、または異常検査所見が2つ以上 | ウ又はエ | 5つ以上 |
| 3級 | EF値50%以下、または異常検査所見が1つ以上 | イ又はウ | 1〜2つ以上 |
異常値として認められる検査項目と数値
診断書には、心機能を裏付ける客観的な数値の記載が不可欠です。障害認定基準では、心電図・胸部X線・心エコー・BNP値など複数の検査を「異常検査所見(A〜G)」として定義しており、そのうち「左室駆出率(EF)40%以下」(所見F)と「BNP値200pg/ml超」(所見G)が代表的な指標です。BNP値については、100pg/ml以上でNYHA心機能分類Ⅱ度以上、200pg/ml以上で心不全状態が進行していると判断される目安とされています。
BNP・EF以外の異常検査所見
障害認定基準では、F・G以外にも複数の異常検査所見が定義されています。安静時心電図でのST低下や深い陰性T波(所見A)、負荷心電図での明らかな心筋虚血所見(所見B)、胸部X線での心胸郭係数60%以上や肺静脈性うっ血(所見C)、心エコーでの中等度以上の左室肥大や心拡大・弁膜症(所見D)、心電図での重症な頻脈性・徐脈性不整脈(所見E)などです。2級・3級の判定では、これらの所見のうちいくつが該当するかが、一般状態区分表や臨床所見の数と組み合わせて審査されます。診断書にこれらの検査結果が正確に記載されているかどうかは、事前に主治医と確認しておくとよいでしょう。
検査数値が基準以下でも認定される可能性
「BNP値が目安より低いから」「EF値が50%あるから」という理由で、すぐに諦める必要はありません。障害認定基準は、呼吸困難・心悸亢進・尿量減少・夜間多尿・チアノーゼ・浮腫等の臨床症状、検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により総合的に認定するとしています。数値と実態の乖離がある場合は、後述する「生活実態の可視化」がより重要になります。
検査の数値はそれほど悪くないと言われたのですが、実際の生活はかなりしんどいです。それでも認定されますか?
社労士数値だけで決まるわけではありません。障害認定基準では臨床症状や日常生活の状態、治療の経過などを総合的に見ることになっているので、数値が基準に届かなくても、実際の生活の困難さを具体的に診断書へ反映できれば認定される可能性は十分にあります。
「苦しくて歩けない」実態は、どうすれば診断書に反映できますか?
安静時の数値に異常が出にくいタイプの心不全では、運動時の心機能を測る検査データや、日常生活での具体的なエピソードを医師に伝えることが、実態を裏付ける鍵になります。心不全の最も大きな症状である「運動耐容能の低下(疲れやすさ)」を、どうやって医学的な裏付けとして書類に落とし込むかが受給の鍵を握ります。

運動負荷試験(CPXなど)の重要性
安静時の数値(EF値やBNP値)に異常が出にくいタイプ(HFpEF:射出率が保持された心不全など)の場合、運動時の心機能を測る「最高酸素摂取量(Peak VO2)」などのデータが有効です。障害認定基準の「一般状態区分表」は、6Mets以上を区分ア、4〜6Metsを区分イ、3〜4Metsを区分ウ、2〜3Metsを区分エ、2Mets未満を区分オと、身体活動能力(Mets)に対応させて示されており、CPX(心肺運動負荷試験)の結果で運動能力の低下を裏付けられれば、歩行困難な実態を強力に裏付けることができます。
一般状態区分表と具体的なエピソードの整合性
診断書にある「一般状態区分表」の(ア)〜(オ)の選択は、非常に重い意味を持ちます。主治医には「家の中で何ができ、何ができないか」を正確に伝えなければなりません。「買い物に行っても途中でベンチで休まないと帰れない」「着替えをするだけで息が上がる」といった具体的なエピソードを、医師に伝えるメモにまとめることが重要です。
併存症や合併症が与える影響の考慮
慢性心不全は、慢性腎臓病(CKD)や糖尿病、貧血などを併発していることが多く、これらが倦怠感を助長します(心腎連関など)。心臓単体の数値だけでなく、こうした合併症によって「より一層動けない状態」にあることを、診断書の備考欄等に反映してもらうよう調整が必要です。複数の合併症がある場合は、どの症状がどの程度日常生活に影響しているかを整理したメモを用意しておくと、主治医への説明がスムーズになります。
診断書を依頼する際、主治医に何を伝えればいいですか?
症状の頻度と持続時間、無理をしてでも就労している実態、再入院の回数と治療への抵抗性の3点を具体的に伝えることが、実態に即した診断書につながります。医師は多忙であり、患者の日常生活の細部まで把握しているわけではありません。実態を医学的に裏付けるためには、患者側からの情報提供が不可欠です。

自覚症状の頻度と持続時間をメモ化する
「時々苦しい」ではなく、「週に何回、どのような動作をした時に、何分間苦しさが続くのか」をデータとして提示しましょう。夜間の発作性呼吸困難(横になると苦しく、起き上がると楽になる)など、心不全特有の症状がある場合は必ず伝えます。
就労状況と「無理をしている」実態の共有
もし仕事をしている場合でも、「時短勤務である」「デスクワークのみに配慮されている」「帰宅後は動けず寝込んでいる」といった状況は、3級以上の認定において非常に重要な判断材料となります。「働けているから軽症」と誤解されないための工夫が必要です。
再入院の回数と治療への抵抗性
再入院の繰り返しは病状の不安定さを示す明確な証拠です。これまでの入院歴や、利尿薬の増量が必要な頻度などを整理し、治療が困難な「難治性心不全」の側面がある場合はそれを強調してもらう必要があります。
よくある質問
Q. 慢性心不全は国民年金と厚生年金、どちらの障害年金の対象になりますか?
A. 初診日にどちらの制度に加入していたかで決まります。国民年金加入中の初診なら1級・2級のみが対象の障害基礎年金、厚生年金加入中の初診なら1級から3級まで対象の障害厚生年金になります。
Q. 心臓ペースメーカーやICDを装着した場合、いつが障害認定日になりますか?
A. 原則として装着した日が障害認定日になります(初診日から1年6ヶ月を超える場合を除く)。
Q. 心不全の原因になった病気によって基準は変わりますか?
A. はい。心疾患は弁疾患・心筋疾患・虚血性心疾患・難治性不整脈・大動脈疾患・先天性心疾患に区分されており、それぞれ異なる基準で判定されます。診断書を依頼する前に、自分の心不全がどの区分に当てはまるのか、主治医や専門家に確認しておくと準備がスムーズです。
Q. 一度不認定になった場合、症状が悪化したら再申請できますか?
A. はい。事後重症請求という形で、症状が悪化した時点から改めて請求することができます。
Q. 心臓移植や人工心臓を装着した場合はどうなりますか?
A. 心臓移植と人工心臓は原則1級、CRT(心臓再同期療法)は原則2級として認定されます。ただし術後1〜2年程度経過観察のうえ、症状が安定していれば等級の見直しが行われます。
まとめ:専門家と共に「目に見えない障害」を可視化する
慢性心不全は、数値の解釈や生活実態との結びつけが非常に難易度の高い疾患です。本人にとっては死ぬほど苦しい「歩けない」という実態も、適切な検査や診断書の記載がなければ、審査側には伝わりません。検査数値と日常生活の実態、その両方を漏れなく診断書に反映させることが、適正な等級認定への近道です。
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