監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
転職の前か後かというタイミング自体は、もらえる年金の種類を変えません。すでに確定している初診日によって、障害基礎年金か障害厚生年金かが決まるためです。
年金額の計算に使われる厚生年金の加入期間は「障害認定日の属する月」までで打ち切られるため、転職後に給与が上がっても年金額には反映されません。
ただし、無理をして働き続けている状態で診断書を作成してもらうと、実際より軽く評価されるリスクがあるため、申請するタイミングそのものは慎重に選ぶ価値があります。
「転職する前に申請したほうがいいのか、転職してからのほうがいいのか」というご相談を、体調に不安を抱えながら働き方を見直している方からよくいただきます。結論から言うと、転職のタイミング自体が、もらえる年金の種類や金額を大きく左右することはありません。
ただし、「いつ申請するか」という別の話は、診断書の内容や手続きのしやすさに関わってきます。この2つを混同してしまうと、判断を誤りやすくなります。
この記事では、社会保険労務士の視点から、転職を検討している方が障害年金の申請タイミングをどう考えればいいか整理します。すでに初診日を迎えていて、これから転職を考えている方に、参考にしていただける内容です。「転職前」と「転職後」のどちらが得かという二択で考えるより、正しく理解しておくべきポイントを一つずつ確認していきましょう。
転職の前後で、もらえる年金の種類は変わりますか?
変わりません。もらえる年金の種類は、すでに確定している初診日の時点でどの制度に加入していたかによって決まります。
初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日のことです。すでに症状が出て受診している方にとって、初診日は過去の事実として確定しており、これから転職しても変わることはありません。初診日に厚生年金保険に加入していれば厚生年金保険法第47条に基づく障害厚生年金、国民年金のみであれば国民年金法第30条に基づく障害基礎年金が対象になります。
「今から転職すれば有利になるのでは」という誤解
「厚生年金のほうが手厚いと聞いたので、転職して厚生年金に入り直してから申請したい」というご相談を受けることがあります。しかし初診日がすでに過去にある以上、これから転職して厚生年金に加入し直しても、その転職後の加入は今回の障害年金の判定には関係しません。この点を誤解したまま転職の意思決定をしてしまうと、かえって治療や生活のリズムを崩す結果になりかねません。
初診日がまだ来ていない場合は話が別
体調に不安を感じつつも、まだ一度も医療機関を受診していない段階であれば話は別です。この場合、実際に受診した日が初診日になるため、転職の前に受診するか後に受診するかによって、加入していた制度が変わる可能性はあります。
ご自身のケースが当てはまるか、迷っていませんか
障害年金は、同じ傷病でも初診日や日常生活の状況によって結果が変わります。記事だけでは判断がつかない部分も多いので、気になる点があればお気軽にお声かけください。ご依頼前のご相談は無料です。
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転職後の給与は、年金額の計算に影響しますか?
影響しません。障害厚生年金の額の計算に使われる被保険者期間は、障害認定日の属する月までで打ち切られます。
日本年金機構の案内によれば、障害厚生年金の報酬比例部分は、初診日から1年6か月後などにあたる障害認定日の属する月までの標準報酬額をもとに計算され、障害認定日の属する月より後の被保険者期間は、年金額の計算の基礎とされません。つまり、障害認定日を過ぎたあとに転職して給与が上がっても、その分は年金額に反映されない仕組みです。
今の会社より給料のいい会社に転職すれば、年金額も増えるのでしょうか。
社労士残念ながら、増えません。年金額の計算に使われる期間は障害認定日の属する月までで区切られているため、それ以降の給与は反映されない仕組みになっています。
短期間の加入でも「300月みなし」で最低保障される
厚生年金の加入期間が300か月(25年)に満たない場合は、300か月加入していたものとみなして年金額が計算されます。転職を繰り返して加入期間が短くても、この最低保障の仕組みによって、極端に低い年金額にはなりにくくなっています。
在職中と退職後、診断書の内容に違いは出ますか?

出ることがあります。診断書には「現症時の就労状況」を記載する欄があり、申請する時点での状態が反映されるためです。
体調が悪くても、責任感から無理をして出勤を続けている方は少なくありません。そうした状態のまま診断書を依頼すると、「仕事を続けられている」という表面的な事実だけが記載され、実際の負担の大きさが伝わりにくくなることがあります。真面目に頑張っている方ほど、この点で損をしやすい傾向があります。
無理をしている実情を具体的に伝える
在職中に申請する場合は、「出勤はできているが、家に帰ると何もできない」「頻繁に休憩や早退が必要」といった具体的な実情を、病歴・就労状況等申立書で丁寧に伝えることが大切です。就労できているという事実だけが独り歩きしないよう、背景を補足する意識を持ちましょう。
退職後は「働けなかった経緯」が伝えやすい
退職後に申請する場合は、症状が理由で仕事を続けられなくなったという経緯そのものが、日常生活や就労能力の制限を裏づける材料になります。ただし、退職後の生活状況(家事や外出がどの程度自分でできるか)も、あわせて具体的に伝える必要があります。
転職・退職前にしかできない準備はありますか?

あります。在職中の勤務状況を示す記録や、会社を通じて取得する証明書類は、退職前のほうが集めやすい傾向があります。
配慮を求めて部署異動や業務内容の変更があった場合の記録、上司とのやり取りのメールなど、在職中でなければ手に入りにくい資料があります。退職を決める前に、こうした資料をひととおり整理しておくと、後になって慌てずに済みます。退職後は連絡先が分からなくなり、当時の担当者に確認しづらくなることもあるため、在職中のうちに済ませておくのが安心です。
| 比較項目 | 在職中に申請 | 退職後に申請 |
|---|---|---|
| もらえる年金の種類 | 初診日で決まるため同じ | 初診日で決まるため同じ |
| 年金額の計算 | 障害認定日までの記録で確定 | 変わらない |
| 診断書の「現症時の就労状況」欄 | 就労中の様子が反映される | 退職後の生活状況が反映される |
| 傷病手当金との関係 | 継続受給できる場合がある | 資格喪失後の継続給付要件の確認が必要 |
厚生年金の加入記録は退職後でも確認できる
厚生年金の加入期間そのものは、退職後も「ねんきんネット」や年金事務所で確認できます。この点は、慌てて退職前に確認しなければならないものではありません。
転職に伴う保険の切れ目には、どんな注意が必要ですか?
転職と転職の間に空白期間があると、その間だけ厚生年金保険の資格を失い、国民年金第1号被保険者に切り替わることがあります。
すでに初診日を迎えている方であれば、この空白期間の有無が今回の障害年金の判定に影響することはありません。ただし、体調の変化によって別の傷病で新たに医療機関を受診することになった場合、その新しい初診日が空白期間中にあると、障害基礎年金のみの対象になる可能性があります。持病とは別の症状が出たときは、この点を意識しておきましょう。
傷病手当金の継続給付にも要件がある
健康保険の傷病手当金を受給中に退職すると、原則として資格を失い受給できなくなりますが、一定の要件を満たせば「資格喪失後の継続給付」として引き続き受け取れる場合があります。転職・退職前に、現在の受給状況を確認しておくとよいでしょう。
転職先の社会保険加入時期も確認しておく
転職先が決まっている場合は、入社日からすぐに厚生年金保険に加入できるのか、試用期間中は未加入なのかといった点も、あらかじめ確認しておくと空白期間を把握しやすくなります。
よくある質問
Q. すでに転職しましたが、初診日は前の会社にいたときです。年金の種類は変わりますか?
A. 変わりません。初診日はすでに確定している事実なので、その後の転職によって障害年金の種類が変わることはありません。
Q. 転職先が決まる前に退職する予定です。何か注意することはありますか?
A. 退職から次の就職までの間、厚生年金保険の資格がない期間が生じます。その間に新たな傷病の初診日が来ないよう、体調管理には特に気をつけましょう。
Q. 転職後、厚生年金に加入するまで時間がかかりそうです。その間に症状が悪化したらどうなりますか?
A. すでに初診日を迎えている傷病であれば影響はありません。ただし、その期間中に別の傷病で初めて受診した場合は、障害基礎年金のみの対象になる可能性があります。持病の悪化と新たな傷病の発症は分けて考える必要があります。
Q. 診断書は、退職してから書いてもらったほうがいいですか?
A. 一概には言えません。在職中でも、無理をしている実情を具体的に申立書で補えば、不利にならないケースは多くあります。
Q. 転職のストレスで症状が悪化しました。これは初診日に影響しますか?
A. 同じ傷病についてすでに初診日がある場合、症状の悪化によって初診日が変わることはありません。悪化した状態は、今後の等級判定の材料として考慮されます。
Q. 障害年金を受給しながら転職することはできますか?
A. できます。ただし、就職によって症状や生活状況に変化があった場合は、日本年金機構への届出が必要になることがあります。
まとめ:転職のタイミングより「初診日」と「申請時の伝え方」がカギ
転職の前か後かというタイミング自体は、もらえる年金の種類にも、年金額の計算にも影響しません。国民年金法第30条・厚生年金保険法第47条のいずれが適用されるかは、すでに確定している初診日によって決まります。
本当に気をつけたいのは、無理をして働き続けている実情が、診断書やご自身の話の中でうまく伝わっているかどうかです。転職を検討するタイミングは、ご自身の状態を見直すよい機会でもあります。「転職前か後か」という表面的な二択にとらわれず、ご自身の状態を正しく伝えることに意識を向けてみてください。
当事務所は香川県観音寺市に事務所を構え、全国どこからのご相談にも対応していますので、申請のタイミングに迷ったら、お気軽にご相談ください。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
・国民年金法 第30条(e-Gov法令検索)
・厚生年金保険法 第47条(e-Gov法令検索)
・障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
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