監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は障害認定基準(第1節 眼の障害、第5節 そしゃく・嚥下機能の障害、第7節 肢体の障害、第10節 呼吸器疾患による障害、第18節 その他の疾患による障害)および日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
重症筋無力症は、症状が及ぶ部位によって認定基準の判断が変わりますが、日常生活や労働に支障が出ていれば障害年金の対象になります。
四肢の筋力低下が中心であれば第7節「肢体の障害」、眼瞼下垂や複視が中心であれば第1節「眼の障害」、嚥下障害が中心であれば第5節「そしゃく・嚥下機能の障害」など、症状の中心がどこにあるかで使う基準が変わります。
どの部位にも明確に当てはまらない全身の易疲労感が中心の場合は、第18節「その他の疾患による障害」にもとづき、いわゆる難病として総合的に認定されることもあります。
重症筋無力症は、日によって、あるいは1日の中でも時間帯によって症状の重さが変わる病気です。「調子の良いときもあるので、障害年金の対象になるとは思えない」と申請をためらう方は少なくありません。診察のたびに症状の見え方が違うことが、申請への不安につながっているケースも多いようです。
実際には、重症筋無力症は指定難病のひとつで、障害厚生年金2級・3級などで受給に至っている実例が確認できる傷病です。ただし、眼・四肢・嚥下・呼吸のどこに症状が強く出ているかによって、あてはめられる認定基準が変わります。発症から間もない時期に認定された例もあれば、長年の通院を経てから申請に至った例もあります。
この記事では、重症筋無力症の症状のタイプごとに、どの認定基準にもとづいて等級が判断されるのかを整理します。
重症筋無力症でも障害年金は申請できますか?
日常生活や労働に支障が出ていれば、障害年金の対象になります。重症筋無力症は、まぶたが下がる眼瞼下垂、物が二重に見える複視、手足の筋力低下、飲み込みにくさ、重症化すると呼吸筋の障害まで、人によって症状の現れ方が大きく異なる病気です。
そのため、重症筋無力症には「この節で判断する」という単一の認定基準があるわけではなく、症状の中心がどこにあるかによって、あてはめられる認定基準がまるごと変わります。申請の際は、どの症状がご自身にとって一番の支障になっているかを整理することが第一歩になります。
| 症状の中心 | 適用される認定基準 |
|---|---|
| 四肢の筋力低下 | 第7節 肢体の障害(肢体の機能の障害) |
| 眼瞼下垂・複視 | 第1節 眼の障害 |
| 嚥下障害 | 第5節 そしゃく・嚥下機能の障害 |
| 呼吸筋の障害・呼吸不全 | 第10節 呼吸器疾患による障害 |
| いずれにも明確に当てはまらない易疲労感等 | 第18節 その他の疾患による障害(いわゆる難病として総合認定) |
重症筋無力症は指定難病ですか?
はい、重症筋無力症は厚生労働省が定める指定難病のひとつです。国内の患者数はおよそ3万人とされ、自己免疫の異常により神経から筋肉への信号がうまく伝わらなくなることで、筋力低下が生じます。
障害基礎年金と障害厚生年金、どちらが対象になりますか?
初診日にどちらの年金制度に加入していたかで決まります。厚生年金加入中に初診日があれば3級を含む障害厚生年金の対象に、国民年金加入中であれば1級・2級のみの障害基礎年金の対象になります。
四肢の筋力低下が中心の場合、何の認定基準で判断されますか?

手足の筋力低下が上肢・下肢などの広い範囲に及んでいる場合、障害認定基準「第7節 肢体の障害」のうち「肢体の機能の障害」にもとづいて判断されます。関節可動域・筋力・巧緻性・速さ・耐久性などを考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定するものです。
症状が片方の上肢や下肢だけに限られている場合は、上肢の障害・下肢の障害それぞれの個別基準で判断されます。上肢と下肢の両方に症状があり、左右で程度が異なる場合は、より重い側の状態で判断されます。重症筋無力症は進行の仕方に個人差が大きく、初期には片側の症状だけが目立つケースもあるため、経過をたどりながら記録を残しておくことが役立ちます。
朝は普通に歩けるのですが、夕方になると足に力が入らなくなります。こういう変動がある場合、どう伝えればいいですか?
社労士重症筋無力症は症状に日内変動があることが広く知られている病気です。調子の良い時間帯だけでなく、症状が悪化したときにどこまで動けなくなるかを具体的に主治医へ伝え、診断書に反映してもらうことが大切ですよ。
「新聞紙をつまめるか」のような動作も見られますか?
見られます。タオルを絞る、ボタンをとめる、歩行や階段の昇降といった、日常生活の具体的な動作がどこまでできるかが、診断書上でも重要な判断材料になります。
眼瞼下垂や複視が中心の場合はどうですか?
まぶたが下がって視界が遮られたり、物が二重に見えたりする症状が中心の場合、障害認定基準「第1節 眼の障害」にもとづいて判断されます。視力そのものの低下ではなく、まぶたの状態や複視の程度が中心的な判断材料になる点が特徴です。
複視については、注視野の測定結果にもとづいて判断されます。両眼で見たときに物が二重に見える範囲が広いほど、日常生活への支障が大きいと判断されやすくなります。
眼科と神経内科、両方の受診が必要ですか?
重症筋無力症の治療を行う神経内科に加えて、眼症状については眼科での検査・診断書作成が必要になることが多く、両方の受診歴を整理しておくことが申請の準備につながります。
嚥下障害・呼吸障害がある場合はどうですか?
飲み込みにくさが中心であれば第5節「そしゃく・嚥下機能の障害」、呼吸筋の障害が中心であれば第10節「呼吸器疾患による障害」にもとづいて判断されます。重症化すると、呼吸筋の麻痺により人工呼吸器管理が必要になる「クリーゼ」と呼ばれる急性増悪が起きることがあります。
クリーゼを経験している場合は、その後の呼吸機能の状態や、再発のリスクをどう管理しているかも、認定の判断材料として重要になります。
誤嚥性肺炎を繰り返している場合は考慮されますか?
考慮されます。嚥下障害による誤嚥性肺炎の既往は、日常生活・労働への支障を示す重要な材料のひとつになります。頻度や重症度を具体的に医師に伝えておきましょう。
症状に日内変動がある場合、診断書はどう書いてもらえばよいですか?
調子の良いときの状態ではなく、症状が悪化したときにどこまで生活に支障が出るかを、具体的に伝えることが重要です。重症筋無力症は、運動を続けると筋力が低下し、休息すると回復するという特徴があり、診察のタイミングによって症状の見え方が大きく変わることがあります。
朝は問題なく歩けても夕方には歩行が困難になる、といった1日の中での変化や、症状が重い日と軽い日の差を、具体的なエピソードとして病歴・就労状況等申立書に記載しておくことが大切です。「調子の良い日もある」ことを隠す必要はありませんが、それだけでなく症状が悪化したときの具体的な状況もあわせて伝えることで、実態に近い評価につながります。

治療で症状が落ち着いている日に受診すると不利になりますか?
その日だけの状態で判断されるわけではありません。診察時の症状に加えて、日頃の症状の波を申立書等で補足することで、実態に近い評価につなげることができます。
よくある質問
Q. 治療で症状がある程度落ち着いている場合、対象外になりますか?
A. 一概には言えません。治療によって症状がコントロールできていても、労働や日常生活に一定の制限が残っていれば対象になる可能性があります。逆に、症状がほとんど出ていない状態が続いていれば、対象外と判断されることもあります。
Q. 複数の症状がある場合、認定はどうなりますか?
A. それぞれの認定基準にもとづいて障害の程度を判断したうえで、複数の障害が重複する場合は「第19節 重複障害」の考え方により、あわせて認定されることがあります。単独の症状では軽い等級でも、重複によって結果的に上位等級になることもあります。
Q. 診断書はどの様式を使いますか?
A. 四肢の症状が中心であれば「肢体の障害用」、眼症状であれば「眼の障害用」、嚥下障害であれば「そしゃく・嚥下機能の障害用」を使用します。症状が複数の部位にまたがる場合は、中心となる症状に応じた様式を主治医と相談して選びます。
Q. クリーゼを起こしたことがあると有利になりますか?
A. クリーゼの既往そのものが直接等級を左右するわけではありませんが、呼吸機能や全身状態にどのような影響が残っているかを示す重要な情報になります。診断書に経過を詳しく記載してもらいましょう。
Q. 障害年金はいくらもらえますか?
A. 障害基礎年金は1級が年額1,059,125円、2級が年額847,300円です(令和8年度、子の加算を除く)。障害厚生年金は加入期間や給与水準によって金額が変わるため、一律の金額でお答えすることはできません。
まとめ:重症筋無力症と障害年金の申請ポイント
重症筋無力症は、症状が及ぶ部位によってあてはめられる認定基準が変わる病気です。四肢が中心であれば肢体の障害、眼症状であれば眼の障害、嚥下障害であればそしゃく・嚥下機能の障害、呼吸障害であれば呼吸器疾患による障害というように、症状の中心を見極めることが申請の第一歩になります。
香川・岡山・愛媛で障害年金のご相談をお受けしていても、重症筋無力症は症状の日内変動が大きく、診察のタイミングによって症状の見え方が変わりやすい傷病だと感じています。調子の良いときの姿だけでなく、症状が重いときの状態も含めて整理することが、申請準備のポイントです。どの症状を中心に申請を進めるべきか迷う場合も、遠慮なくご相談ください。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
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