監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法および日本年金機構の公表資料に基づき作成しています。
この記事の結論
収入制限があるのは「20歳前傷病」による障害基礎年金だけで、令和8年度は前年所得が479万4,000円を超えると全額、376万1,000円を超えると半額が支給停止されます。
ADHD単独で、20歳を過ぎてから初診日がある場合は、この収入制限そのものを受けません。
ただし知的障害を伴う場合は、初診日が20歳前まで遡って扱われることが多く、結果的に収入制限の対象になりやすい点には注意が必要です。
「ADHDで障害年金をもらいながら働いていますが、収入が増えると年金が止まってしまうのでは」というご相談を、当センターではよく伺います。
実は、障害年金の収入制限は、すべての受給者に一律にかかるものではありません。制限があるのは特定の条件に当てはまる方だけで、それ以外の方は収入がいくら増えても年金額に影響しません。ご自身がどちらに当てはまるかを知らないまま働き方を控えてしまうのは、かえってもったいないことです。
この記事では、ADHDで障害年金を受給する場合の収入制限の有無と、働き方を考えるときの注意点を整理します。
ADHDの障害年金に、収入制限はありますか?
収入制限があるのは「20歳前傷病」による障害基礎年金だけです。それ以外の障害基礎年金・障害厚生年金には、収入による支給制限はありません。

| 20歳前傷病の障害基礎年金 | 20歳以降に初診日がある障害年金(基礎・厚生とも) | |
|---|---|---|
| 収入(所得)制限 | あり | なし |
| 全額支給停止のライン | 前年所得 479万4,000円超 | 該当なし |
| 半額支給停止のライン | 前年所得 376万1,000円超 | 該当なし |
なぜ「20歳前傷病」だけに収入制限があるのですか?
20歳前傷病による障害基礎年金は、本人が保険料を納めていない期間の傷病を対象にしているためです。
保険料を納めた年金とは、性質が異なります
通常の障害基礎年金・障害厚生年金は、保険料を納めてきたことに対する給付です。一方、20歳前傷病による障害基礎年金は、年金制度に加入する前(多くは子供の頃)に生じた障害を対象にした、いわば福祉的な性格の強い給付です。そのため、本人に一定以上の所得がある場合は、支給の全部または一部を停止する仕組みが設けられています。
扶養家族がいると、制限のラインは上がります
所得制限額は、扶養親族1人につき38万円加算されます(老人扶養親族等は48万円、19歳未満の特定扶養親族等は63万円)。扶養家族が多いほど、収入があっても制限を受けにくくなる仕組みです。
ADHDで働きながら受給する場合、収入制限にかかりやすいのはどんな人ですか?
療育手帳を持っている、つまり知的障害の受診歴がある方は、収入制限にかかりやすくなります。

初診日の扱いが、収入制限の有無を左右します
療育手帳の交付を受けている場合、その手帳を取得するための受診がすでに行われていることになるため、初診日が20歳前の受診日まで遡って扱われることが多くなります。その結果、20歳前傷病による障害基礎年金として扱われ、収入制限の対象になりやすい傾向があります。一方、知的障害の受診歴がなく、ADHDの症状で20歳を過ぎてから初めて受診した場合は、通常の障害基礎年金・障害厚生年金として扱われ、収入制限を受けません。
大人になってからADHDと診断され、正社員としてフルタイムで働いています。収入が増えたら、障害年金は止まってしまいますか?
社労士知的障害の受診歴がなく、20歳を過ぎてから初めて受診されているのであれば、収入による支給制限はありません。収入制限がかかるのは、20歳前傷病による障害基礎年金に限られるためです。ご自身の初診日がどちらの扱いになっているか、まずは年金証書等で確認してみましょう。
収入制限にかかると、年金はどうなりますか?
前年所得が376万1,000円を超えると年金額の2分の1が、479万4,000円を超えると全額が支給停止されます。
停止される期間はいつからいつまでですか?
支給停止の判定は毎年行われ、停止される期間はその年の10月分から翌年9月分までです。前年の所得が下がれば、翌年10月分から支給が再開されます。一時的に収入が増えた年があっても、その後の収入次第で受給が復活する仕組みです。
パート・アルバイト・正社員で、扱いは変わりますか?
雇用形態そのものによる違いはなく、収入制限がかかるかどうかは、あくまで初診日がいつだったかで決まります。
「働き方を控える」前に確認すべきこと
収入制限を心配してパートの日数を減らす、正社員登用を避けるといった判断をする前に、まずご自身の障害基礎年金が20歳前傷病によるものかどうかを確認することが先決です。20歳以降に初診日がある通常の障害基礎年金・障害厚生年金であれば、収入を理由に働き方を制限する必要はありません。
よくある質問
Q. 自分の年金が20歳前傷病にあたるかどうかは、どこで確認できますか?
A. 年金証書に記載されている年金の種類や、年金事務所への確認で分かります。ご自身での判断が難しい場合は、請求時の記録をもとにお調べすることもできます。
Q. 所得制限にかかりそうな場合、事前に何かできることはありますか?
A. 扶養親族がいる場合は所得制限額が加算されるため、扶養の状況を正確に届け出ておくことが大切です。制限の対象になるかどうかが不明な場合は、早めに年金事務所や当センターにご相談ください。
Q. 厚生年金に加入して障害厚生年金3級を受給していますが、収入制限はありますか?
A. ありません。障害厚生年金には、収入・所得を理由にした支給停止の制度自体がありません。
Q. 収入が一時的に増えて支給停止になった場合、年金はどうなりますか?
A. 消滅するわけではありません。翌年以降に所得が基準額を下回れば、その年の10月分から支給が再開されます。
Q. 配偶者の収入も、判定に含まれますか?
A. 含まれません。判定に使われるのは、受給者本人の前年所得のみです。
まとめ:収入制限は「20歳前傷病」だけの仕組み
ADHDの障害年金に収入制限がかかるかどうかは、雇用形態や収入の大きさそのものではなく、初診日が20歳前傷病として扱われるかどうかで決まります。療育手帳の交付を受けている方は収入制限の対象になりやすい一方、20歳を過ぎてから初めて受診したADHD単独のケースでは、収入を理由に年金が止まることはありません。
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