監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は健康保険法・厚生労働省の公表資料・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
傷病手当金と障害年金は、「どちらが得か」を選ぶ制度ではありません。同じ病気で受給期間が重なった場合、健康保険法第108条第3項により障害厚生年金が優先され、傷病手当金は支給停止または差額支給となります。その結果、合計の手取りは金額が高い方に揃えられます。金額で得をする選択肢は存在しません。
損得を分けるのは金額ではなく「タイミング」です。傷病手当金の支給期間(通算1年6ヶ月)が終わる3〜4ヶ月前から障害年金の申請準備を始め、収入が途切れる空白期間を作らないことが、最も損をしない進め方です。
ただし例外が1つあります。初診日に国民年金に加入していた方が受け取る「障害基礎年金のみ」のケースは、健康保険法第108条第3項の調整対象外です。この場合に限り、同じ病気でも傷病手当金と障害年金を両方満額で受け取れます。
うつ病や適応障害などで休職し、傷病手当金を受け取りながら療養されている方にとって、最大の不安は「お金」です。「傷病手当金はいつまで受給できるのか」「支給が終わった後の生活はどうなるのか」——1年6ヶ月という期限が近づくほど、その焦りは大きくなります。
この記事では、傷病手当金と障害年金の併給調整のルールを法的根拠とともに整理し、「いつ動けば損をしないのか」を具体的に解説します。
傷病手当金と障害年金は同時にもらえますか?
同じ病気が原因の場合、両方を満額で受け取ることはできません。健康保険法第108条第3項により障害厚生年金が優先して支給され、傷病手当金は支給停止となります(傷病手当金の日額の方が多い場合は、その差額のみが支給されます)。これを「併給調整(へいきゅうちょうせい)」と呼びます。
ただし、原因となる病気やケガが別々である場合は、併給調整は行われず、両方を満額で受け取れます。例えば「うつ病で障害年金を受給中に、交通事故によるケガで休職して傷病手当金を請求する」といったケースです。
2つの制度の違い
| 傷病手当金 | 障害年金 | |
|---|---|---|
| 根拠となる制度 | 健康保険(健康保険法第99条) | 国民年金・厚生年金保険 |
| 目的 | 短期的な所得保障 | 長期的な生活保障 |
| 対象者 | 休職中で給与の支払いがない健康保険の被保険者 | 初診日に年金制度に加入し、納付要件・障害状態の要件を満たす方 |
| 金額の目安 | 標準報酬日額の3分の2 | 障害等級と加入していた年金制度により決定 |
| 受給できる期間 | 支給開始日から通算して1年6ヶ月 | 障害状態が認定基準に該当する限り無期限(更新あり) |
| 役割 | 復職までのリリーフ | 長期的な生活の土台 |
どちらも「働けないことによる所得の減少を補う」という目的が共通しています。だからこそ、同じ病気が原因の場合には二重取りにならないよう調整が行われるのです。
併給調整されると、いくら減りますか?

合計の手取り額は減りません。障害年金の日額が傷病手当金の日額より少ない場合、その差額が傷病手当金として支給されるためです(健康保険法第108条第3項ただし書)。つまり、受け取れる合計額は「金額が高い方」に揃えられます。
法令上の計算方法
比較は月額ではなく、日額で行われます。
- 傷病手当金の日額=支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 3分の2
- 障害年金の日額=障害厚生年金の額(同一の支給事由による障害基礎年金があれば、その合算額)÷ 360
この2つを比べ、障害年金の日額の方が多ければ傷病手当金は全額支給停止、少なければその差額が支給されます。
具体的な金額例
ケース1:傷病手当金が月額18万円、障害年金が年額144万円(月額12万円)の場合
- 傷病手当金の日額:18万円 ÷ 30 = 6,000円
- 障害年金の日額:144万円 ÷ 360 = 4,000円
- 障害年金の日額(4,000円)< 傷病手当金の日額(6,000円)
- → 差額の1日2,000円が傷病手当金として支給される
結果、障害年金 月12万円 + 傷病手当金の差額 月約6万円 = 合計 月約18万円。傷病手当金のみを受給していた時と同じ金額が確保されます。
ケース2:傷病手当金が月額18万円、障害年金が年額240万円(月額20万円)の場合
- 障害年金の日額(約6,666円)> 傷病手当金の日額(6,000円)
- → 傷病手当金は全額支給停止となり、障害年金 月20万円のみを受け取る
いずれの場合も、手元に残るのは「高い方の金額」です。この仕組みを知っておくだけで、経済的な見通しが立てやすくなります。
障害基礎年金だけの場合も、傷病手当金は調整されますか?
調整されません。傷病手当金と障害基礎年金を、両方満額で受け取れます。
これは意外と知られていない、非常に重要なポイントです。健康保険法第108条第3項が調整の対象としているのは、あくまで「厚生年金保険法による障害厚生年金」です。したがって、障害厚生年金の受給権がなく、障害基礎年金のみを受給する場合は、同一の傷病であっても併給調整の対象になりません。
具体的にどんな人が該当するか
障害年金は「初診日にどの年金制度に加入していたか」で受け取れる年金の種類が決まります。初診日に国民年金に加入していた方(学生・自営業・専業主婦(夫)・無職の期間中に初めて受診した方)は、障害基礎年金のみの対象となります。
つまり、次のような経過をたどった方が該当します。
- 学生時代や無職の期間に、うつ病・統合失調症・発達障害などで初めて医療機関を受診した
- その後、就職して健康保険(協会けんぽ・健保組合)に加入した
- 症状が悪化して休職し、傷病手当金を受給している
- 初診日から1年6ヶ月が経過し、障害認定日を迎えて障害基礎年金を請求する
このケースでは、傷病手当金(健康保険)と障害基礎年金(国民年金)をどちらも満額で受け取れます。20歳前に初診日がある傷病による障害基礎年金も同様に調整対象外です(ただしこちらには所得による支給停止の仕組みがあります)。
注意:「自分は会社員だから障害厚生年金のはず」と思い込んでいる方が非常に多いのですが、判断の基準は「現在の勤務先」ではなく「初診日時点の加入制度」です。ここを取り違えると、受け取れる金額の見通しが大きく狂います。初診日がいつなのか曖昧な方は、必ず専門家に確認してください。
いつ申請するのが一番損をしませんか?

傷病手当金の支給期間が満了する3〜4ヶ月前です。障害年金は請求してから結果が出るまで3ヶ月以上かかるため、満了間際に動き始めると、傷病手当金が切れた後に収入がゼロになる「空白期間」が発生します。
戦略1:傷病手当金の満了に合わせて着地させる(標準的)
最もリスクが少ない選択肢です。通算1年6ヶ月の満了時期から逆算し、3〜4ヶ月前を目安に診断書の依頼や病歴・就労状況等申立書の作成に着手します。
- メリット:受給期間が重ならない(または重なりが短い)ため、差額調整の計算や返還手続きを気にせず済み、家計管理がシンプルです。
- デメリット:準備が遅れると空白期間が生じます。特に精神疾患の場合、主治医への診断書依頼から受け取りまで1ヶ月前後かかることも珍しくありません。
戦略2:障害認定日が来たらすぐ請求する
傷病手当金の受給中でも、初診日から1年6ヶ月が経過した「障害認定日」を迎えたらすぐに請求する戦略です。
- メリット:受給権を1日でも早く確定できます。特に障害基礎年金のみに該当する方は、調整対象外のため両方満額を受け取れ、この戦略の効果が最も大きくなります。
- デメリット:障害厚生年金に該当する方は、入金時期のずれによって健康保険組合への返還手続きが発生し、事務作業が煩雑になります。
つまり、どちらの戦略を取るべきかは「初診日にどの年金制度に加入していたか」で変わります。これが、傷病手当金と障害年金のスケジュール設計で最初に確認すべき点です。
さかのぼって請求すると、傷病手当金の返還が必要になりますか?
必要になります。遡及請求(そきゅうせいきゅう)で過去の分の障害厚生年金がまとめて支給された場合、その期間に受け取っていた傷病手当金は、健康保険組合や協会けんぽへ返還しなければなりません。
これは「例外的なトラブル」ではありません
厚生労働省が社会保障審議会医療保険部会に提出した資料によれば、協会けんぽにおいて令和元年度に併給調整により発生した過払い債権は、障害年金に関するものだけで5,001件・15.8億円にのぼります。1件あたり平均で約31万円です。
返還額は重複期間の年金額に応じて決まるため、数十万円、場合によっては百万円単位になることもあります。「まとまったお金が入った」と喜んで使ってしまうと、後から届く返還請求に対応できず、かえって生活が破綻しかねません。
遡及請求を行う場合は、必ず「返還分を差し引いた金額」で家計を計算してください。これがプロとして最もお伝えしたい注意点です。
よくある質問(FAQ)
Q. 傷病手当金をもらっている間に障害年金を申請してもいいですか?
A. 問題ありません。受給中の申請は制度上まったく制限されていません。むしろ、傷病手当金の満了後に収入が途切れないよう、満了の3〜4ヶ月前から準備を始めることが推奨されます。
Q. 傷病手当金と障害年金、どちらを先に申請すべきですか?
A. 傷病手当金が先です。傷病手当金は休職して給与が支払われなくなった時点から請求でき、障害年金は原則として初診日から1年6ヶ月経過後でなければ請求できないためです。時系列で自然に傷病手当金が先になります。
Q. 障害年金を受給すると、傷病手当金は打ち切られますか?
A. 障害厚生年金に該当する場合は支給停止となります。ただし、傷病手当金の日額の方が多ければ差額が支給されるため、手取りの合計額は減りません(健康保険法第108条第3項)。障害基礎年金のみの場合は、そもそも調整されず両方満額を受け取れます。
Q. 傷病手当金の1年6ヶ月と、障害認定日の1年6ヶ月は同じですか?
A. 別物です。傷病手当金の1年6ヶ月は「支給を始めた日」から通算して数えます。障害認定日の1年6ヶ月は「初診日」から数えます。起算日が違うため、両者の満了時期は一致しないのが通常です。この違いを取り違えると、スケジュールが大きくずれます。
Q. 病気が別なら、傷病手当金と障害年金の両方を満額もらえますか?
A. 受け取れます。健康保険法第108条第3項の調整は「同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病」が対象です。原因となる傷病が別であれば併給調整は行われません。
Q. 退職後に傷病手当金を受け取っている場合はどうなりますか?
A. 資格喪失後の継続給付を受けている方が老齢年金も受給できる場合は、原則として傷病手当金は支給されません(健康保険法第108条第5項)。ただし在職中であれば老齢年金との調整はありません。障害厚生年金との調整については、在職・退職を問わず行われます。
まとめ:空白期間を作らないために、早めの計画を

この記事の要点を整理します。
- 同じ病気なら、傷病手当金と障害厚生年金の合計額は高い方に揃えられる(健康保険法第108条第3項)
- 金額で得をする裏技はない。損得を分けるのはタイミング
- ただし障害基礎年金のみなら調整対象外。両方満額で受け取れる
- どちらに該当するかは初診日時点の加入制度で決まる
- 遡及請求では返還リスクを必ず織り込む
休職期間が長引くと、どうしても視野が狭くなり、目の前のお金のことで頭がいっぱいになってしまいます。だからこそ、早めに専門家と一緒にスケジュールを立て、将来の不安を一つずつ消していくことが、治療に専念するための第一歩となります。
「私の傷病手当金はいつまで?」「初診日はいつになる?」「今すぐ申請したら、いくら返金が必要?」——こうした疑問への答えは、お一人おひとりの初診日・給与額・年金加入記録・病状によってすべて異なります。中四国障害年金相談センターでは、香川・岡山・愛媛を中心に、個別の状況をお伺いして「損をしない受給スケジュール」を具体的にアドバイスしています。
参考資料
LINEでのご相談手順(24時間受付)
当センターでは、外出が難しい方でもスマートフォン一つでご相談いただけるよう、公式LINEでの無料相談・受給判定を承っております。
質の高いサポートを本気で受給を目指す皆様へお届けするため、ご相談時には以下の手順をお願いしております。

- 下記のボタンをタップすると当センターの公式LINE画面に移動しますので、「友だち追加」ボタンからご登録をお願いいたします。
- ご登録後、当センターから案内メッセージが自動で届きます。
- 案内に沿って、現在のご状況をメッセージでお送りください。「障害年金が受給できるか知りたい」「診断書の依頼で迷っている」等、一言添えていただくとスムーズです。
- 内容を確認次第、社労士より直接、今後の進め方や受給の可能性について順次お返事させていただきます。
皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。
※スマートフォンからそのまま追加できます。
※しつこい営業等は一切行いませんのでご安心ください。









