監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・健康保険法、国民年金・厚生年金保険障害認定基準、および厚生労働省・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
コロナ後遺症(罹患後症状)も、要件を満たせば障害年金の対象になります。
専用の認定基準はなく、症状に最も近い区分の基準を準用して審査されます。
傷病手当金や労災保険を同じ傷病で受けている場合は、支給が調整されることがあります。
「コロナにかかってから、倦怠感や息切れがずっと続いている」「検査をしても異常が見つからず、どう説明すればいいか分からない」というご相談が増えています。新しい病気であるだけに、障害年金の対象になるのかどうか、不安に思う方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、コロナ後遺症も障害年金の対象になり得ます。ただし、他の病気とは少し違う独自の事情があります。この記事では、コロナ後遺症で障害年金を申請する際に知っておきたいポイントを、社会保険労務士の視点から整理してご紹介します。新しい病気だからこそ、正確な情報をもとに判断していただければと思います。
コロナ後遺症でも、障害年金は申請できますか?
申請できます。厚生労働省のQ&Aでも、罹患後症状は障害年金の対象になり得ると明記されています。
厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A」では、罹患後症状によって日常生活や仕事に著しい制限が生じ、一定の保険料納付要件等を満たす場合には、障害年金の対象になるとされています。障害年金は病名を限定する制度ではなく、生活や仕事にどれだけ支障が出ているかで判断される点は、他の病気と変わりません。「新しい病気だから対象外」ということはありませんので、まずは可能性を確認することから始めてみてください。
対象になり得る症状の例
厚生労働省のQ&Aでは、代表的な罹患後症状として、疲労感・倦怠感、息切れ、咳、関節痛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、動悸、睡眠障害、筋力低下などが挙げられています。これらの症状によって、仕事や日常生活に著しい制限が生じている場合に、障害年金の対象として検討されます。単一の症状だけでなく、複数の症状が組み合わさって生活に支障をきたしているケースも少なくありません。
保険料納付要件は他の病気と同じです
国民年金法第30条・厚生年金保険法第47条第1項が定める保険料納付要件は、コロナ後遺症であっても変わりません。初診日の前日時点で、一定期間の保険料納付が必要になるため、この点は他の病気と同様に確認が必要です。
コロナ後遺症には、専用の認定基準がありますか?
専用の認定基準はありません。症状に最も近い既存の基準を準用して審査されます。
国民年金・厚生年金保険障害認定基準では、明示された基準に当てはまらない障害について、その障害の程度を医学的検査結果等に基づいて判断し、最も近似する認定基準の障害の程度に相当するものを準用して認定を行うと定められています。コロナ後遺症はこの仕組みにより、中心となる症状に応じた区分で審査されます。
| 症状の中心 | 主に使われる診断書様式 | 審査で重視されやすい点 |
|---|---|---|
| 強い倦怠感・微熱など全身症状 | 血液・造血器・その他の障害用 | 一般状態区分(どの程度動けるか)、症状の持続期間 |
| 咳・息切れなど呼吸器症状 | 呼吸器疾患用 | 呼吸機能検査の数値、日常生活での息切れの程度 |
| 抑うつ・記憶障害・集中力低下 | 精神の障害用 | 日常生活能力の程度、就労状況 |
| 動悸・胸痛など循環器症状 | 循環器疾患用 | 心電図等の検査所見、生活上の制限 |
強い倦怠感が中心の場合の実務上の傾向
強い倦怠感が中心の場合、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に類似した症状として、その重症度分類が実務上の参考にされる傾向があります。全身状態を示す指標(どの程度身の回りのことができるか、就労が可能かなど)が、等級の見立てに用いられることが多くなっています。これはあくまで実務上の運用傾向であり、最終的な等級は個々の症状や生活状況をもとに総合的に判断されます。
検査で異常が出にくいことへの対応
コロナ後遺症の症状の多くは自覚症状が中心で、血液検査や画像検査でははっきりした異常が見つかりにくいという特徴があります。そのため、診断書には、日常生活や仕事でどのような支障が出ているかを、具体的に反映してもらうことが重要になります。「だるくて動けない」だけでなく、「何分立っていられないか」「家事はどこまでできるか」など、具体的な場面で伝えると、医師にも状況が伝わりやすくなります。
働きながらでも、申請できますか?

働きながらでも申請できます。ただし、どの程度無理をして働けているかも重要な判断材料になります。
罹患後症状には、体を動かした後に症状が悪化する「労作後の症状増悪」が見られることがあります。時短勤務や休み休みの働き方でなんとか出勤できている場合、単に「働けているかどうか」ではなく、「どのような配慮のもとで働けているか」を診断書や病歴・就労状況等申立書に反映することが、実態に即した審査につながります。
初診日は、いつになりますか?

初診日は、新型コロナウイルス感染症の症状で初めて医療機関を受診した日になります。
後遺症の症状が出てから別の医療機関を受診した場合でも、初診日は感染時にさかのぼって判断されるのが原則です。発熱外来やかかりつけ医を受診した記録、検査結果の通知などが、初診日を証明する手がかりになります。
コロナにかかったときは自宅療養で、特に病院には行きませんでした。この場合、初診日はどうなるのでしょうか。
社労士その場合は、後遺症の症状で初めて医療機関を受診した日が初診日として扱われることが多くあります。検査キットの結果や自宅療養の記録が残っていれば、あわせて整理しておくと安心です。
症状がどのくらい続けば、申請できますか?
目安は、初診日から1年6ヶ月が経過した「障害認定日」です。
WHOが罹患後症状(いわゆるlong COVID)を「2ヶ月以上持続する症状」と定義しているのとは別に、障害年金の審査で基準になるのは、国民年金法第30条・厚生年金保険法第47条第1項が定める「初診日から1年6ヶ月を経過した日」という障害認定日の考え方です。この2つの期間の基準は目的が異なるため、混同しないよう注意が必要です。「後遺症の定義上は2ヶ月」という情報だけを見て、申請時期を誤解しないようにしましょう。
1年6ヶ月より前でも、諦める必要はありません
障害認定日の時点で症状が軽くても、その後悪化した場合は、事後重症請求という形で、あらためて請求できる仕組みがあります。「今はまだ症状が軽いから」という理由だけで、将来的な申請の可能性を諦める必要はありません。
傷病手当金や労災保険を受けていても、申請できますか?
申請自体はできますが、同じ傷病を理由に他の給付を受けている場合、支給が調整されることがあります。
健康保険法第108条第3項により、同一の傷病について障害厚生年金を受けられるときは、傷病手当金の全部または一部が支給停止となる場合があります。この調整の対象は障害厚生年金であり、障害基礎年金のみを受ける場合は、傷病手当金との調整は生じません。また、業務中の感染で労災保険の障害補償給付等を受ける場合は、労災保険給付の側が一部減額される仕組みになっています。
よくある質問
Q. 感染から時間が経っていても申請できますか?
A. 申請できます。障害基礎年金・障害厚生年金は、5年の消滅時効にかかるのは個々の支払請求権であり、受給権そのものは消滅しません。感染から年数が経っていても、あきらめる必要はありません。
Q. 検査で異常が見つからなくても認定されますか?
A. 可能性はあります。障害認定基準では、検査数値だけでなく、自覚症状や具体的な日常生活状況等をあわせて総合的に判断するとされています。数値に表れにくい症状こそ、生活への影響を具体的に伝えることが大切です。「動くとどうなるか」まで含めて記録しておくと役立ちます。
Q. 何級になる可能性がありますか?
A. 症状の程度や生活への支障の大きさによって異なり、一律にお答えすることはできません。日常生活が著しく制限される状態であれば2級、労働に制限が生じる程度であれば3級の可能性が検討されます。
Q. 初診日の証明が難しい場合はどうすればいいですか?
A. 診察券やお薬手帳、検査キットの結果、当時の勤務記録など、初診日を推測できる資料を集めることから始めます。一人で判断が難しい場合は、早めに社会保険労務士へ相談することをおすすめします。手元にある資料だけでも、まずは持って相談していただければ大丈夫です。
Q. 労災保険との違いは何ですか?
A. 労災保険は、業務によって感染し、療養等が必要と認められる場合が対象です。障害年金は、業務によるものかどうかを問わず、保険料納付要件等を満たせば対象になる点が異なります。
Q. コロナ後遺症の診断書は、どの科の医師に書いてもらえばいいですか?
A. 中心となる症状を診てもらっている主治医に依頼するのが基本です。倦怠感が中心なら内科や後遺症外来、呼吸器症状なら呼吸器内科、抑うつなど精神症状が中心なら精神科・心療内科が窓口になることが多くあります。複数の症状がある場合は、最も生活に支障をきたしている症状を診ている医師に相談するとよいでしょう。
まとめ:コロナ後遺症も、要件を満たせば障害年金の対象です
コロナ後遺症(罹患後症状)は、厚生労働省のQ&Aでも障害年金の対象になり得ることが明記されています。専用の認定基準はなく、症状に最も近い区分の基準を準用して審査されるため、倦怠感が中心か、呼吸器症状が中心かなど、症状の内容によって使われる診断書の様式も変わります。障害認定日は初診日から1年6ヶ月後が目安ですが、それより前でも将来的な事後重症請求という道が残されています。
検査で異常が出にくい症状だからこそ、日常生活や仕事への影響を具体的に伝えることが重要です。傷病手当金や労災保険との調整が生じる場合もあるため、判断に迷う場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。働きながらの申請を考えている方も、無理をしている実態を正確に伝えることが、審査の後押しになります。
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参考資料
- 国民年金法 第30条(e-Gov法令検索)
- 厚生年金保険法 第47条(e-Gov法令検索)
- 健康保険法 第108条第3項(e-Gov法令検索)
- 日本年金機構「障害認定基準」
- 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A」
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