監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金・厚生年金保険障害認定基準・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
若年性乳がんの治療後遺症(リンパ浮腫・末梢神経障害・強い倦怠感・精神的な症状等)は、障害年金の対象になり得ます。障害認定基準第1章第16節「悪性新生物による障害」では、がんそのものによる障害だけでなく、治療の結果として生じた障害も対象とされています。
「がんは治療が終わって寛解した」という状態であっても、後遺症が日常生活や仕事に支障を与えていれば、申請を検討する価値があります。
若年性乳がんの場合、発症時に会社員として厚生年金に加入しているケースが多く、障害厚生年金では国民年金にはない3級の対象にもなり得るため、「症状が軽いから対象外」と思い込まず確認することが大切です。
若くして乳がんと診断され、手術や抗がん剤治療を乗り越えた後、腕のむくみや手足のしびれ、強い倦怠感といった後遺症に悩まされている方は少なくありません。「治療は無事に終わったのだから、もう病気ではない」と周囲から思われがちで、残っているつらさをうまく理解してもらえないという声もよく聞きます。職場に復帰しても、以前と同じようには働けない自分にもどかしさを感じている方もいらっしゃるかもしれません。周囲の励ましが、かえって重荷に感じられることもあるでしょう。治療を終えた安堵感の裏で、こうした孤独感を抱えている方は少なくありません。
がん自体が落ち着いていても、治療の後遺症によって仕事や生活に支障が出ているのであれば、障害年金の対象になる可能性があります。この記事では、乳がんの治療後遺症がどのように審査されるのか、そして若年性乳がんならではの注意点を社労士の視点から、丁寧に解説します。
乳がんの治療後遺症は、障害年金の対象になりますか?
乳がんの治療後遺症は、障害年金の対象になり得ます。障害認定基準第1章第16節「悪性新生物による障害」では、がんそのものによる障害だけでなく、治療の結果として生じた障害も対象とされています。
手術、化学療法、放射線治療、ホルモン療法など、乳がんの治療にはさまざまな種類があり、それぞれに特有の後遺症が生じることがあります。障害年金の審査では、がんの進行度そのものだけでなく、こうした治療によって生じた障害の程度も評価の対象になります。実際に、抗がん剤の副作用によって日常生活に支障が出たことを理由に、障害厚生年金3級の受給が認められた事例も報告されています。
一般状態区分表による総合的な評価
悪性新生物による障害は、一般状態区分表(ア〜オの5段階)をもとに、日常生活や就労にどれだけ支障が出ているかを総合的に考慮して認定されます。区分表の「ウ」〜「オ」に近い状態(軽労働はできるが肉体労働は難しい〜終日就床が必要)であれば、受給の可能性が高まるとされています。数値による明確な基準がない分、日々の生活の様子をどれだけ具体的に伝えられるかが重要になります。
「がんは治った」状態でも、申請できますか?

申請できます。がん自体が寛解・治癒していても、治療によって生じた後遺症が残っていれば、その後遺症の程度に応じて障害年金の対象になります。
「がんは治療が終わって落ち着いているから、もう障害年金には関係ない」と考えてしまう方は少なくありません。しかし、リンパ浮腫や末梢神経障害、強い倦怠感などは、がんそのものが治まった後も長く続くことがあり、日常生活や仕事への影響が続いていれば審査の対象です。実際に、乳がんの発覚・治療直後よりも、治療がひと段落してから後遺症の存在に気づき、受給を検討し始める方も少なくないといわれています。この段階になって初めて社労士に相談する方が多いのが実情です。
再発・転移がある場合
再発や転移がある場合は、がんそのものの進行状況(活動性)も含めて評価されます。骨転移による強い痛みや骨折リスク、肺転移による呼吸困難など、転移先の症状もあわせて考慮されます。ステージⅣ(遠隔転移あり)だからといって必ずしも重い等級になるわけではなく、実際の生活への支障が評価の中心である点は、初発の場合と同じです。
| よくある誤解 | 正しい理解 | |
|---|---|---|
| がんが寛解した場合 | もう対象外 | 後遺症が残っていれば対象になり得る |
| 手術から時間が経った場合 | 今さら申請できない | 今の症状で申請できる |
| 症状の原因 | がんそのものだけが対象 | 治療の副作用による後遺症も対象 |
リンパ浮腫や末梢神経障害は、どう評価されますか?
リンパ浮腫による腕の動かしにくさは「肢体の障害」の考え方で、化学療法による末梢神経障害によるしびれや痛みも、日常生活への支障の程度に応じて評価されます。
乳がんの手術でリンパ節を切除すると、腕や手にリンパ浮腫(むくみ)が生じることがあり、重症化すると腕を上げる、物を持つといった動作が困難になります。抗がん剤治療による末梢神経障害では、手足の感覚が鈍くなったり、ボタンをかける、字を書くといった細かい動作がしづらくなったりすることがあります。こうした症状は見た目では分かりにくいことも多く、周囲から「もう治療は終わったのに」と誤解されやすい点も、当事者にとってつらいところです。
精神的な症状も評価の対象です
長期にわたる治療の負担や、再発への不安から、うつ状態や適応障害などの精神的な症状が生じることもあります。こうした症状も、日常生活にどれだけ影響しているかによって評価の対象になります。身体症状と精神症状が重なっている場合は、それぞれの障害の程度を踏まえて総合的に判断されることもあります。特に若い世代では、将来への不安や仕事・子育てとの両立の悩みが重なり、精神的な負担がより大きくなりやすい傾向もあります。
抗がん剤の後遺症で手がしびれて、細かい作業ができなくなりました。がん自体は落ち着いているのですが、それでも対象になりますか?
社労士はい、対象になり得ます。がんが落ち着いていても、末梢神経障害によって仕事や家事にどれだけ支障が出ているかが評価されます。しびれの範囲や、できなくなった具体的な動作を整理してみましょう。
若年性乳がんならではの注意点はありますか?
若年性乳がんの場合、発症時に会社員として厚生年金に加入しているケースが多く、障害厚生年金では国民年金にはない3級の対象にもなり得ます。
障害基礎年金は1級・2級のみですが、障害厚生年金には3級があります。若くして乳がんを発症した方は、正社員として厚生年金に加入している時期に初診日があることが多いため、比較的軽い症状でも3級として認定される可能性があります。自営業やフリーランスとして働いている場合は国民年金のみの加入となるため、この違いはあらかじめ知っておく価値があります。
「まだ若いから」とためらわないでください
若い年代での申請には、心理的な抵抗を感じる方も少なくありません。「障害年金は高齢者のための制度」というイメージを持たれがちですが、年齢そのものは審査の判断基準ではなく、実際の症状と生活への影響が評価されます。20代・30代での受給例も実際に存在しており、年齢を理由に検討をやめてしまうのはもったいないことです。
診断書には、どんなことを書いてもらえばいいですか?

リンパ浮腫の程度、末梢神経障害によるしびれや痛みの範囲、倦怠感や精神的な症状が、仕事や家事にどう影響しているかを具体的に診断書へ反映してもらうことが重要です。
「治療は終わった」という経過だけでなく、今現在どんな症状が残っていて、それによって何ができなくなっているのかを、具体的に伝えることが大切です。乳がんの治療は複数の診療科(乳腺外科、腫瘍内科、リハビリテーション科等)に関わることもあるため、後遺症の内容に応じてどの医師に診断書を依頼するかも整理しておくとよいでしょう。仕事の場面で以前できていたことができなくなった具体的なエピソードがあれば、あわせて伝えておくと説得力が増します。
よくある質問
Q. 手術から数年経っていますが、今から申請できますか?
A. 申請できます。現在も後遺症による支障が続いていれば、時間が経っていることは申請の妨げにはなりません。当時の治療記録が手元になくても、通院していた病院に問い合わせれば確認できることが多いです。
Q. ホルモン療法の副作用(関節痛・更年期様症状等)だけでも対象になりますか?
A. 症状の程度によります。日常生活や就労に著しい支障が出ている場合は評価の対象になりますが、軽度の症状のみでは対象になりにくい傾向があります。関節痛やほてり、気分の落ち込みなどが重なって生活に大きく影響している場合は、一度整理してみる価値があります。
Q. 障害基礎年金と障害厚生年金、どちらが対象になりますか?
A. 初診日にどの制度に加入していたかで決まります。若年性乳がんの場合、会社員として厚生年金に加入していた時期に初診日があるケースが多く、障害厚生年金の対象になることが多い傾向があります。専業主婦や学生の場合は障害基礎年金が対象になります。
Q. 子どもがいる場合、加算はありますか?
A. 障害基礎年金には子の加算、障害厚生年金(1級・2級)には配偶者の加算があります。ご家族の状況によって加算の有無が変わるため、確認しておくとよいでしょう。子育て中の方にとっては、生活設計を考えるうえでも重要なポイントです。
Q. 自分の症状で対象になるか、事前に相談できますか?
A. ご相談いただけます。治療の経過や現在の症状をうかがいながら、認定の可能性を一緒に整理していきます。仕事や子育てとの両立で忙しい方には、LINEでの相談も対応しています。
まとめ:がんが落ち着いていても、後遺症は評価の対象です
乳がんの治療後遺症(リンパ浮腫・末梢神経障害・精神的な症状等)は、障害年金の対象になり得ます。がん自体が寛解していても、治療によって生じた後遺症が日常生活や仕事に支障を与えていれば、障害認定基準第1章第16節「悪性新生物による障害」の枠組みで評価されます(一般状態区分表による総合的な認定)。若年性乳がんの場合、発症時に厚生年金に加入しているケースが多く、障害厚生年金3級の対象になる可能性もあります。
「がんは治療が終わったから」「まだ若いから」とためらわず、今残っている症状が生活にどう影響しているかを、一度整理してみることをおすすめします。ご自身では判断がつきにくい場合も、まずはお気軽にご相談ください。香川県観音寺市に事務所を構え、全国どこからのご相談にも対応しています。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
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