監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法施行令・国民年金・厚生年金保険障害認定基準・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)や、それによって生じた脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患の後遺症は、障害年金の対象になり得ます。残った症状(麻痺・言語障害・高次脳機能障害等)の内容に応じて、複数の認定基準の節にまたがって審査されます。
脳血管疾患には障害認定日の特例があり、通常は初診日から1年6か月後が障害認定日ですが、6か月経過時点で医学的にそれ以上の機能回復が見込めないと判断されれば、その時点で請求できる場合があります(国民年金法施行令第4条の6)。
この6か月特例は経過すれば自動的に使えるわけではなく、リハビリを継続中の場合は「症状固定」と認められないため、診断書にどう記載されるかが認定日を左右する重要なポイントになります。
もやもや病や脳梗塞・脳出血の後遺症で、手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくいといった症状を抱えながら生活している方の中には、「まだ発症から1年6か月経っていないから、障害年金の相談はまだ先」と考えている方がいらっしゃいます。たしかに、障害年金の障害認定日は原則として初診日から1年6か月後です。リハビリに専念しながら「今は治療の途中だから」と申請のことを後回しにしてしまうのも、無理のないことだと思います。
しかし、脳血管疾患には特別な取り扱いがあり、条件が整えば1年6か月を待たずに請求できることがあります。この記事では、もやもや病や脳血管疾患の後遺症が障害年金でどう扱われるのか、そして見落としやすい特例について社労士の視点から解説します。
もやもや病や脳血管疾患の後遺症は、障害年金の対象になりますか?
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)や、それによって生じた脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患の後遺症は、障害年金の対象になり得ます。
もやもや病自体は指定難病(指定難病22)ですが、障害年金の審査で問われるのは病名そのものではなく、実際に残っている後遺症の内容です。片麻痺、言語障害、高次脳機能障害など、どのような症状が残っているかによって、対応する認定基準の節で審査されます。
もやもや病とはどんな病気か
もやもや病は、脳への主要な血管である内頸動脈の終末部が進行性に狭くなり、その代わりとなる異常な血管網(もやもや血管)が発達する病気です。小児例では一過性の脳虚血発作や脳梗塞が中心となり、成人例では脳出血を来す例も3〜4割程度観察されます。過呼吸(激しく泣く、笛を吹く等)がきっかけで発作が誘発されやすいことも知られており、症状の重さや現れ方には個人差が大きいのが特徴です。
病名ではなく後遺症の内容が審査される
もやもや病、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など、原因となった病名が何であっても、結果として残っている麻痺や言語障害、高次脳機能障害の程度が、障害年金の審査の中心になります。バイパス手術を受けて出血・虚血の再発予防はできていても、発症時に生じた後遺症が残っていれば、その状態が評価の対象です。「難病の指定を受けているから」という理由だけで自動的に等級が決まるわけではない点にも注意が必要です。
脳血管疾患の障害認定日には「6か月特例」があるって本当ですか?

本当です。脳血管疾患により機能障害が残っている場合、通常の1年6か月を待たずに、初診日から6か月経過した日以後で「それ以上の機能回復がほとんど望めない」と医学的に判断された時点を障害認定日とする特例があります(国民年金法施行令第4条の6)。
通常、障害認定日は初診日から1年6か月を経過した日ですが、脳血管疾患は発症から比較的早い時期に症状が固定することが多いため、平成24年9月の見直しでこの特例が明確化されました。
「6か月経過すれば自動的に」ではありません
この特例は、6か月が経過すれば自動的に使えるわけではありません。診断書に「症状固定」「機能回復の見込みなし」と明記されることが条件で、入院してリハビリを継続している場合、週に2〜4回程度通院してリハビリを続けている場合、老人保健施設等に入所してリハビリを続けている場合は、いずれも「症状固定」とは認められません。主治医が今の治療方針をどう考えているか、早めに確認しておくことが大切です。
特例を使わず1年6か月を待つ選択肢もあります
リハビリの効果でまだ症状が改善する見込みがある場合は、無理に6か月時点での請求を目指す必要はありません。1年6か月時点の状態で請求する方が、結果的に有利な等級につながることもあるため、どちらの時期で請求するかは慎重に検討する価値があります。焦って早期に請求して軽い等級で決定してしまうより、回復を待ってから請求する方が結果的によい場合も少なくありません。
発症からまだ8か月なのですが、まだ申請できないのでしょうか?
社労士発症から6か月を過ぎていて、これ以上の機能回復が見込めないと医師が判断していれば、その時点で請求できる可能性があります。ただし、リハビリを継続中の場合は「症状固定」と認められないこともあるので、今の治療状況を詳しく確認させてください。
後遺症の内容によって、どの認定基準で審査されますか?
手足の麻痺が中心であれば「肢体の障害」の節、言語障害が中心であれば「音声又は言語機能の障害」の節、高次脳機能障害が中心であれば「精神の障害」の節というように、最も生活に影響している症状に応じて、それぞれの認定基準の節が適用されます。
複数の後遺症が重なっている場合(例えば片麻痺と言語障害の両方がある場合)は、それぞれの障害の程度を踏まえて、全体としての障害の程度を総合的に認定する「総合認定」という考え方が用いられることもあります。どの症状を中心に据えるかによって、依頼する診断書の様式や記載を依頼する医師も変わってくるため、早い段階で整理しておくことが大切です。
| 後遺症 | 適用される認定基準の節 |
|---|---|
| 手足の麻痺 | 肢体の障害 |
| 言語障害(失語症等) | 音声又は言語機能の障害 |
| 高次脳機能障害(記憶障害・感情コントロール困難等) | 精神の障害 |
もやもや病特有の注意点はありますか?
もやもや病は、脳梗塞や脳出血を発症する前の段階(無症候性や一過性脳虚血発作の段階)で見つかることもあり、この場合は初診日の考え方に注意が必要です。
健診等でもやもや病が偶然見つかり、その後何年も経ってから脳梗塞・脳出血を発症した場合、もやもや病の診断を受けた日と、実際に脳血管疾患を発症した日の、どちらが初診日になるかが問題になることがあります。医学的なつながり(相当因果関係)が認められれば、もやもや病の診断日が初診日として扱われる可能性があります。当時の診察券やカルテなど、初診日を裏付ける資料は早めに確認しておくと安心です。
子どもの頃に発症した場合
もやもや病は5〜10歳頃を中心とする小児期と、30〜40歳頃を中心とする成人期の2つの年代で発症のピークがある病気です。小児期に発症している場合は、20歳前に初診日がある「20歳前傷病」に該当し、保険料納付要件が問われない可能性があります。子どもの頃の発作が「熱中症」「過呼吸」などと診断され、後になってもやもや病と分かるケースもあるため、当時の受診記録を確認しておくとよいでしょう。
高次脳機能障害がある場合、何に気をつければいいですか?

高次脳機能障害は外見からは分かりにくいため、日常生活での具体的な困りごとを、診断書や病歴・就労状況等申立書に詳しく記載してもらうことが特に重要です。
記憶障害、注意障害、感情のコントロールが難しい、段取りよく物事を進められないといった症状は、身体の麻痺のように見た目で分かるものではありません。家族など周囲から見た様子も含めて、具体的なエピソードを伝えることが認定を左右します。診察の短い時間では本人も自覚しにくい変化があるため、日常生活での失敗談や困った場面を、あらかじめメモにまとめておくとよいでしょう。
よくある質問
Q. バイパス手術を受けて症状が改善しています。それでも申請できますか?
A. 手術によって血流が改善し、発作の再発リスクが下がっていても、発症時に生じた麻痺や高次脳機能障害などの後遺症が残っている場合は、その残存症状の程度に応じて申請の対象になります。「手術が成功したから対象外」というわけではありません。
Q. 一過性脳虚血発作(TIA)だけで、脳梗塞・脳出血には至っていません。この場合はどうなりますか?
A. 一過性脳虚血発作のみで後遺症が残っていない場合は、障害年金の対象になりにくいのが実情です。ただし、発作を繰り返していて日常生活に支障が出ている場合は、状況次第で相談する価値があります。
Q. 高次脳機能障害だけで、身体の麻痺はありません。それでも申請できますか?
A. 身体の麻痺がなくても、高次脳機能障害による日常生活への支障が大きければ、精神の障害の基準で申請の対象になり得ます。
Q. 6か月特例を使うか1年6か月を待つか、どちらがいいか判断できません。
A. 症状の回復見込みや、リハビリの状況によって最適な選択は変わります。診断書を依頼する前に、今の状態を整理しながら一緒に検討することができます。
Q. 自分の症状で対象になるか、事前に相談できますか?
A. ご相談いただけます。後遺症の内容や現在の生活状況をうかがいながら、どの基準で申請を進めるべきかを一緒に整理していきます。発症から間もない時期のご相談も歓迎しています。
まとめ:1年6か月を待たずに動ける場合があります
もやもや病や脳血管疾患の後遺症は、障害年金の対象になり得ます。審査で問われるのは病名そのものではなく、麻痺・言語障害・高次脳機能障害といった残存症状の内容で、それぞれに応じた認定基準の節で判断されます。脳血管疾患には「6か月特例」という障害認定日の特例もありますが(国民年金法施行令第4条の6)、症状固定と認められるための条件があるため、診断書の記載内容が重要になります。
「まだ1年6か月経っていないから申請できない」と思い込まず、今の状態が特例の対象にならないか、一度確認してみることをおすすめします。特例を使うか通常どおり1年6か月を待つかの判断は、リハビリの経過や主治医の見立て次第で変わるため、迷ったときこそ専門家に相談する価値があります。香川県観音寺市に事務所を構え、全国どこからのご相談にも対応しています。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
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