障害年金の申請において、多くの方が「手続きはいつ行っても同じ結果になる」と誤解されがちですが、実は申請のタイミングがその後の受給状況に直接、かつ重大な影響を及ぼすケースがあります。
特に「事後重症請求(じごじゅうしょうせいきゅう)」という方法で申請を行う場合、制度上のルールにより、申請が1ヶ月遅れるごとに、受け取れるはずだった1ヶ月分の年金が受給権ごと失われてしまいます。
これは、後からどれだけ遡ろうとしても、制度上決して取り戻すことができないものです。
今回は、なぜ事後重症請求では1日も早い準備が推奨されるのか。
その仕組みと、円滑に申請を進めるための実務的なポイントについて詳しく解説します。
「事後重症請求」とは?認定日請求との決定的な違い

障害年金の申請には、大きく分けて「認定日請求」と「事後重症請求」の2種類があります。
この違いを正しく理解することが、不利益を避けるための第一歩です。
さかのぼりができない「今」の請求
「認定日請求」は、初診日から1年6ヶ月を経過した日(障害認定日)において、すでに障害等級に該当する状態であった場合の請求方法です。
この場合は、申請が遅れても認定日まで最大5年分を遡って受け取ることができます。
一方、今回取り上げる「事後重症請求」は、以下のようなケースで行われます。
- 障害認定日の時点では症状が軽かったが、その後悪化して基準に該当するようになった。
- 認定日当時は病院を受診しておらず、当時の診断書が作成できない。
この請求の最大の特徴は、「過去に遡るという概念が一切ない」という点にあります。
支給開始は「申請した月の翌月」から
法律(国民年金法第18条など)では、事後重症請求による年金の支給について「請求のあった月の翌月から始める」と厳格に定められています。
つまり、役所の窓口で書類が受理された「その日」が何月であるかによって、年金の受給開始月が確定します。
3月31日に受理されれば4月分から支給されますが、わずか1日遅れて4月1日になると、支給は5月分からとなり、4月分の年金を受け取る権利は永久に失われます。
【実録】1ヶ月の遅れがもたらす「取り戻せない損失」
「1ヶ月くらいなら誤差の範囲内では?」と思われるかもしれませんが、具体的な金額に置き換えると、その重みが実感できるはずです。
具体的な金額シミュレーション
例えば、障害基礎年金2級を受給する場合を考えてみましょう。
令和8年度の支給額(新規裁定者)は、月額で約70,608円です。もし配偶者や中学生以下のお子様がいらっしゃれば、ここに加算がつきます。
- 1ヶ月申請が遅れた場合: 70,608円の損失
- 半年申請が遅れた場合: 約434,000円の損失
- 1年申請が遅れた場合: 約847,300円の損失
もし厚生年金に加入していた期間の初診であれば、これに障害厚生年金が上乗せされるため、1ヶ月あたりの金額はさらに大きくなります。
これは「延期」ではなく「消滅」である
重要なのは、この数万円〜十数万円という金額は、後でまとめて支払われる「延期」ではなく、あなたの生涯受給額から確定的に差し引かれる「消滅」であるという点です。
事後重症請求において、時間はまさに「お金」そのものなのです。
なぜ申請は遅れてしまうのか?実務上の4つのボトルネック

「早く出さなければ」と分かっていても、現実には申請が数ヶ月単位で遅れてしまうケースが後を絶ちません。
実務において、手続きを止めてしまう主な原因(ボトルネック)は以下の4つです。
1. 診断書の作成に要する時間
障害年金の要となる「診断書」は、医師に依頼してから手元に届くまでに、通常2週間から1ヶ月程度かかります。
大きな病院や多忙な医師の場合、さらに時間がかかることも珍しくありません。
「今月中に提出したい」と思っても、診断書が月末に届いたのでは、他の書類を整える時間がなく、月をまたいでしまうリスクが高まります。
2. 初診日証明(受診状況等証明書)の難航
障害年金のスタート地点である「初診日」を証明する書類がなかなか取れないケースです。
特に転院を繰り返している場合や、最初の受診が数年前でカルテが廃棄されているような場合、調査だけで1ヶ月以上を費やすこともあります。
3. 書類不備による窓口での「差し戻し」
ようやく書き上げた書類を月末ギリギリに年金事務所へ持っていき、そこで記入漏れや添付書類の不足を指摘されて受理されない……。
これは事後重症請求において最も避けたい事態です。
持ち帰って修正し、再度足を運んだのが翌月の1日になってしまった瞬間、1ヶ月分の年金が消えてしまいます。
4. ご本人の体調悪化による停滞
障害年金を必要とする方は、そもそも心身に大きな負担を抱えています。
ご自身で複雑な書類を作成しようとしても、体調が優れずに筆が止まり、気づけば数ヶ月が経っていたという例は非常に多く、専門家として最も心苦しく感じるケースの一つです。
1円も損をしないために。確実に「今月中」に受理させる鉄則

事後重症請求を成功させる鍵は、「スピード」と「正確性」の両立です。
カレンダーの「20日」をデッドラインと考える
年金事務所への提出は、毎月「20日まで」を目標に進めることをお勧めします。
そうすれば、万が一書類に不備が見つかり差し戻しになったとしても、残りの日数で修正して「同月内の再提出」が間に合う可能性が高くなるからです。
全ての書類を「並行」して準備する
「初診日の証明が取れてから、診断書を頼む」という進め方では時間がかかりすぎます。
証明書の依頼、診断書の予約、ご自身の「病歴・就労状況等申立書」の作成。
これらを並行して進めることで、準備期間を最短に圧縮できます。
社労士を「時間を買う」パートナーとして検討する
障害年金の専門家である社労士に依頼するメリットは、単に「手間が省ける」だけではありません。
書類の不備をゼロにし、最短ルートで受理まで導く「スピード」こそが最大のメリットです。
もし個人で悩んで3ヶ月遅れるのであれば、プロに任せて3ヶ月早く受給を開始した方が、結果的にご本人の手元に残る金額が多くなるケースも多々あります。
まとめ:あなたの権利を、1枚の書類の遅れで減らさないために
障害年金は、受給者本人の生活を支えるための大切な権利です。
事後重症請求は、待っていても事態が好転することはありません。
制度上の冷徹なルールにより、提出が1ヶ月遅れれば、その分だけあなたの将来を支えるための貴重な原資が失われてしまいます。
「自分は今、申請できる状態なのだろうか?」
「何から手をつければ最短で申請できるのか?」
そう思われた時が、まさに動き出すべき瞬間です。
観音寺・丸亀など中四国エリアで、障害年金の申請を検討されている方は、まずはお早めにご自身の状況を整理することをお勧めします。
1日でも早い申請が、あなたとご家族の将来の安心を確かなものにします。
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事後重症請求の「申請月の翌月支給」という厳しさに加え、長期的な視点で見た時の「時効の壁」についても知っておき、受給の機会を逃さないようにしましょう。
