監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・日本年金機構の公表情報に基づき作成しています。
この記事の結論
老齢年金を繰上げ受給すると、事後重症請求による障害年金は請求できなくなります(国民年金法附則第9条の2の3)。
ただし、障害認定日(初診日から1年6か月後)に障害の状態にあった方は、繰上げ後でも障害認定日請求ができます。
見落とされやすいのは、別の障害と合わせて初めて2級になる「基準障害」による請求も、繰上げ後はできなくなることです。
60歳を過ぎて体調を崩し、仕事を続けられなくなった。生活のために老齢年金を早めに受け取りたいけれど、障害年金に影響はないのか。こうしたご相談をよくいただきます。
繰上げ受給は、一度請求すると取り消せません。この記事では、繰上げ後に請求できなくなる障害年金と、繰上げ後でも請求できる場合を、法律の条文をもとに整理します。
老齢年金を繰上げ受給すると、障害年金は請求できなくなりますか?
すべての障害年金が請求できなくなるわけではありません。請求できなくなるのは、事後重症請求などの一部です。
国民年金法附則第9条の2の3は、老齢基礎年金を繰上げ受給している方に、事後重症請求(第30条の2)や基準障害による請求(第30条の3)などの規定を「適用しない」と定めています。障害厚生年金についても、厚生年金保険法附則第16条の3に同じ定めがあります。
繰上げ後に使える請求・使えない請求
| 請求の方法 | 内容 | 繰上げ後 |
|---|---|---|
| 障害認定日請求 | 初診日から1年6か月後の状態で請求する | 請求できる |
| 事後重症請求 | その後に悪化した状態で請求する | 請求できない |
| 基準障害による請求 | 別の障害と合わせて初めて2級以上になったときに請求する | 請求できない |
| その他障害による額改定 | 軽い別の障害と合わせて等級を上げる | 請求できない |
繰上げ請求は取り消せません
日本年金機構は、繰上げ請求をした後に取り消すことはできないと案内しています。年金の減額も一生続き、昭和37年4月2日以降生まれの方は、1か月繰り上げるごとに0.4%、最大で24%減ります。
繰上げ受給をした後でも、障害年金を請求できるのはどんなときですか?
障害認定日に障害等級にあてはまる状態であれば、繰上げ後でも障害認定日請求ができます。
障害認定日(初診日から1年6か月を過ぎた日)の状態で認められれば、障害年金を受ける権利はその日に発生しています。繰上げ請求より前に障害認定日がある場合も、さかのぼって請求でき、時効にかからない過去5年分まで受け取れます。

繰上げ後に初診日がある場合
初診日(その病気で初めて医師の診療を受けた日)に厚生年金保険に加入して働いていた方は、繰上げ後の初診日でも障害認定日請求の対象になります。一方、60歳から64歳で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、国民年金法第30条第1項第2号が適用されないため、障害基礎年金の対象外です。
障害認定日の診断書が必要です
障害認定日請求には、障害認定日から3か月以内の状態を書いた診断書が必要です。当時の医療機関にカルテが残っているかを、早めに確認しておきましょう。
生活が苦しくて、来月から老齢年金を繰り上げようと思っていたんです。障害年金のことは考えていませんでした。
社労士繰上げの手続きをする前に、障害年金の可能性を一度確認しましょう。繰上げ後は事後重症請求ができなくなるので、手続きの順番がとても大切です。
ご自身のケースが当てはまるか、迷っていませんか
障害年金は、同じ傷病でも初診日や日常生活の状況によって結果が変わります。記事だけでは判断がつかない部分も多いので、気になる点があればお気軽にお声かけください。ご依頼前のご相談は無料です。
※LINEと問い合わせフォームは24時間受け付けています。しつこい勧誘は一切ございません。
繰上げ受給の老齢年金と障害年金は、両方もらえますか?
65歳になるまでは両方を受け取ることはできず、どちらか一方を選びます。
国民年金法第20条により、老齢基礎年金と障害基礎年金を受ける権利が両方ある場合は、選ばなかった方の支給が止まります。繰上げ受給中に障害年金が認められた場合も、65歳までは多い方を選んで受け取ることになります。
65歳からは組み合わせを選べます
65歳以降は、障害基礎年金と老齢厚生年金を組み合わせて受け取ることもできます。繰上げによる減額は老齢年金に一生残るため、障害年金が認められた方は、どの組み合わせが多くなるかを年金事務所で試算してもらいましょう。
障害年金には税金がかかりません
老齢年金は所得税の対象ですが、障害年金は非課税です。受け取る額を比べるときは、税金を差し引いた後の手取りで考えることが大切です。
体調に不安があるとき、繰上げの前に何を確認すればいいですか?
繰上げ請求の前に、初診日と、その日に加入していた年金制度を確認してください。
事後重症請求は、本来は65歳に達する日の前日(誕生日の前々日)までできる請求です(国民年金法第30条の2)。繰上げをすると、この期限を待たずに請求の道が閉じてしまいます。

確認しておきたい3つのこと
- 初診日(その病気で初めて医師の診療を受けた日)と、受診した医療機関
- 初診日に加入していた年金制度(国民年金・厚生年金)
- 今の症状で、日常生活や仕事がどれだけ制限されているか
障害年金の結果を見てから判断できます
障害年金は、請求してから結果が出るまでに数か月かかります。生活費が心配な場合も、先に障害年金を請求し、結果を見てから繰上げを判断すれば、請求の機会を失わずにすみます。
よくある質問
Q. 老齢基礎年金の一部だけを繰り上げた場合も、同じ扱いですか?
A. 同じ扱いです。国民年金法附則第9条の2の3は、一部だけを繰り上げた方(附則第9条の2の2)も対象にしています。一部であっても、繰上げ後は事後重症請求や基準障害による請求ができなくなります。少しだけなら影響はない、ということはありません。
Q. 繰上げ後に、受給中の障害年金の等級を上げる請求はできますか?
A. 同じ障害が重くなった場合は、繰上げ後も請求できます。障害の程度が増進したときの額改定請求(国民年金法第34条第2項)は、そのまま使えます。別の軽い障害と合わせて等級を上げる請求は、繰上げ後はできません。
Q. 繰上げ受給中に、国民年金に任意加入できますか?
A. 繰上げ後はできません。繰上げ受給をしている方には、任意加入の規定(国民年金法附則第5条)が適用されません。任意加入中に初診日があれば障害基礎年金の対象になり得るため、この点も繰上げ前に確認しておきましょう。
Q. 老齢厚生年金だけを繰り上げることはできますか?
A. できません。老齢厚生年金と老齢基礎年金は、同時に繰上げ請求する決まりになっています(国民年金法附則第9条の2第2項)。そのため、厚生年金だけを繰り上げたつもりでも、障害年金への影響は同じように生じます。
まとめ:繰上げ受給の前に、障害年金の可能性を確認しましょう
老齢年金を繰上げ受給すると、事後重症請求や基準障害による請求ができなくなり、繰上げは取り消せません。障害認定日請求は繰上げ後も使えますが、使えるかどうかは初診日と当時の加入制度で決まります。
体調に不安がある方は、繰上げ請求の前に、初診日と今の生活で困っていることを書き出してみましょう。中四国にお住まいの方はもちろん、全国からのお問い合わせに対応しています。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
参考資料
・国民年金法 第30条の2・附則第9条の2の3(e-Gov法令検索)
・厚生年金保険法 附則第16条の3(e-Gov法令検索)
・年金の繰上げ受給(日本年金機構)
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