「仕事がうまくいかない」
「人間関係でトラブルが絶えない」……。
大人になってからADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)と診断され、これまでの生きづらさの正体に気づく方が増えています。
日常生活や就労に大きな支障が出ている場合、障害年金の受給は生活を支える重要な柱となります。
しかし、発達障害の申請で最も高いハードルとなるのが「初診日の特定」と「遡及(さかのぼり)受給」です。
本記事では、大人になってから判明した発達障害における初診日の考え方や、過去に遡って受給権を勝ち取るための具体的な証拠集めのポイントを、専門的な視点から徹底解説します。
大人の発達障害(ADHD/ASD)における「初診日」の重要性
障害年金制度において、初診日はすべての基準となる最重要の日です。
しかし、先天的な特性である発達障害の場合、「いつを初診日とするか」の判断が非常に複雑です。

初診日が受給額や等級を左右する理由
初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師などの診療を受けた日のことを指します。
この日がいつになるかによって、以下の3点が決まります。
- 加入している年金制度:初診日に国民年金か厚生年金か(2級までか3級があるか)。
- 保険料納付要件:初診日の前日までに一定以上の保険料を納めているか。
- 障害認定日:いつの時点の診断書が必要になるか。
特に「大人の発達障害」の場合、社会人になってから厚生年金加入中に受診したのか、それとも学生時代(20歳前)に受診歴があるのかで、受給できる年金額に大きな差が出ることも珍しくありません。
「子供の頃の受診」は初診日になるのか?
発達障害の方の中には、幼少期に「落ち着きがない」「こだわりが強い」といった理由で小児科や教育相談に通っていたケースがあります。
もしその際に、発達障害に関連する診断や診療が行われていれば、そこが初診日と見なされます。
ここで注意が必要なのは、20歳前に初診日がある場合は「20歳前障害」として扱われる点です。
この場合、保険料の納付要件は問われませんが、所得制限が設けられるほか、厚生年金(3級)の対象外となるため、現在の状況に合わせた慎重な判断が求められます。
遡及受給(さかのぼり)を成功させるための条件
遡及受給とは、本来であれば数年前に受給を開始できたはずの年金を、過去に遡って一括で受け取る請求方法(認定日請求)のことです。
最大5年分の年金が支給されるため、経済的なメリットは非常に大きくなります。
障害認定日請求と事後重症請求の違い
障害年金の請求には大きく分けて2つの形があります。
- 認定日請求(遡及請求):
初診日から1年6ヶ月経過した「障害認定日」時点の診断書を用意し、その時点から受給権を主張する方法。 - 事後重症請求:
認定日時点では症状が軽かった、あるいは診断書が取れないなどの理由で、「現在の状態」のみで請求する方法。
発達障害の場合、大人になってから初めて受診したとしても、認定日(初診から1年6ヶ月後)時点で既に現在の生きづらさが継続していれば、遡及受給の可能性が十分にあります。
認定日時点の「カルテ」が残っているかが最大の鍵
遡及受給を勝ち取るための絶対条件は、障害認定日(初診から1年6ヶ月経過した日)から3ヶ月以内の期間における診療記録(カルテ)が当時の病院に残っていることです。
実務上、医師が当時のカルテを見ずに、現在の本人の証言や他の資料だけで当時の診断書を「推察」して作成することはできません。
もし当時の病院が廃院していたり、カルテが廃棄されていたりする場合は、残念ながら認定日請求(遡及)を行うことは困難となり、現在の状態での「事後重症請求」を検討することになります。
そのため、まずは当時の病院にカルテが存否するかを確認することが、遡及への第一歩となります。
証拠がない?初診日を証明するための具体的な方法
認定日請求は難しくても、そもそも「初診日」をどこにするかについては、カルテ以外の証拠が認められるケースがあります。

初診病院のカルテ廃棄・廃院時の対処法
法律上、カルテの保存義務は5年です。
10年以上前の初診日を証明する場合、最初の病院に記録が残っていないことは珍しくありません。
その際、次のような資料が初診日を特定する「客観的証拠」として有効です。
- お薬手帳、診察券、医療費控除の確定申告書類
- 健康保険の給付記録(傷病手当金など)
- 転院先の病院に残っている「紹介状」の写しや、初診に関する記載
これらが一つでも見つかれば、それらを積み上げることで初診日を認定させることが可能です。
母子手帳、通知表、第三者証明の活用
初診日の病院にカルテがない場合、さらに補強資料として以下のものが役立ちます。
- 母子手帳:検診時の「言葉の遅れ」「視線が合わない」などの記載。
- 小中学校の通知表:担任からの「集団行動が苦手」「忘れ物が多い」といった具体的なコメント。
- 第三者証明:当時の状況を客観的に知る知人などによる証言(他の客観的資料と併せて提出)。
これらは直接の初診証明にはなりませんが、「病歴・就労状況等申立書」の内容を裏付け、初診日認定を有利に進めるための重要なパーツとなります。
審査を有利に進める「診断書」と「申立書」の書き方
当時のカルテがあり、認定日請求ができる場合でも、診断書の内容が実態を反映していなければ受給は遠のきます。

当時のカルテ記載を補完する資料の提示
当時のカルテが残っていても、診察時の会話が簡潔すぎて、日常生活の困難さが十分に記載されていないことがあります。
その場合、当時の通知表や家計の記録、家族のメモなどを医師に提示し、「当時はこれほど困っていた」という事実を伝えることが重要です。
医師がカルテの記録を確認しつつ、当時の本人の状況をより解像度高く理解することで、実態に即した診断書の作成につながります。
病歴・就労状況等申立書で「詰む」パターンを回避する
申立書は、ご本人が作成できる唯一の反論の場です。
しかし、ここで「普通に学校を卒業した」「フルタイムで働いていた(実際は欠勤だらけ)」といった、事実と異なる「見栄」を書いてしまうと、不支給の決定的な理由になります。
支援を受けてようやく卒業できた、合理的配慮を受けてなんとか在籍しているといった「援助の内容」を克明に記すことが、正しい等級認定への近道です。
まとめ|「生きづらさ」を適正な権利に変えるために
大人になってから判明した発達障害の障害年金申請は、過去の記録を掘り起こす非常に緻密な作業を伴います。
特に「遡及受給」は、カルテの有無という物理的な壁に加え、証拠の整合性が厳しく問われるため、専門的な判断が欠かせません。
「初診日がわからない」「昔の病院がなくなっている」と立ち止まっている方は、まずは一歩、専門家への相談を検討してみてください。
限られた証拠の中から、あなたの受給権を確保するための最適な戦略を一緒に見つけ出しましょう。
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