精神疾患や発達障害などで障害年金を申請しようとする際、インターネット上の掲示板やSNSで
「一人暮らしをしていると不支給になる」
「一人暮らしは自立しているとみなされる」
といった噂を目にし、不安に感じている方は少なくありません。
結論から申し上げますと、一人暮らしをしているからといって、それだけで障害年金が不支給になるわけではありません。
事実、一人暮らしを送りながら2級や3級を受給している方はいらっしゃいます。
しかし、審査の実務において「一人暮らし」という事実が、診断書の記載内容によっては「日常生活能力がある(障害が軽い)」と判断される強力な材料になってしまうのも、また否定できない現実です。
この記事では、社会保険労務士の視点から、一人暮らしが審査に与える影響の正体と、不当な低評価を避けるために診断書で何を伝えるべきか、その具体的な判断基準と対策を詳しく解説します。
結論:一人暮らし=不支給ではないが、審査は厳しくなりやすい
まず前提として、日本年金機構が公表している「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」においても、一人暮らしをしていることのみをもって直ちに低く評価するのではなく、その生活の実態を詳細に確認することが明記されています。
なぜ「一人暮らし」が審査官に自立とみなされるのか
審査官が診断書を見る際、一人暮らしをしているという事実に接すると、無意識のうちに「この人は自分で買い物に行き、食事を作り、掃除や洗濯をこなし、金銭管理をして生活を維持できている」という前提で書類を読み進めてしまいます。
本来、障害年金の等級は「日常生活にどれほどの制限があるか」で決まります。
同居家族がいる場合は「家族がこれらを手伝っている」という事実が制限の証明になりますが、一人暮らしの場合はその証明が難しいため、「一人でできている」と誤解されやすい構造があるのです。
「一人で暮らしている」と「支援なしで暮らせる」は別物
ここで重要なのは、「現に一人で暮らしている」ことと、「誰の助けも借りずに自立して暮らせる能力がある」ことは全く別物であるという視点です。
例えば、食事はコンビニ弁当ばかりで栄養が偏っている、部屋はゴミ屋敷状態で足の踏み場もない、通院以外は一歩も外に出られないといった状態は、決して「自立した生活」とは言えません。
審査で問われるのは「健康的な生活を維持するための能力が備わっているか」であり、無理をして、あるいは生活が破綻しかけながら送っている一人暮らしは、決してマイナス評価の対象にはならないはずなのです。
2級と3級を分ける「日常生活能力」の境界線
障害年金2級の基準は、ざっくりと言えば「日常生活に著しい制限がある」状態です。
これは、家族などの助けがなければ自分の身の回りのことが満足にできないレベルを指します。
一方、3級は「労働に著しい制限がある」状態で、日常生活はある程度こなせるが仕事は難しいというレベルです。
一人暮らしの場合、この「日常生活の制限」をいかに客観的に証明できるかが、2級(基礎年金であれば受給の可否)を分ける最大の境界線となります。
審査の要!「日常生活能力の判定」7項目とは?

精神疾患の診断書には、日常生活の能力を測るための「7つの項目」が用意されています。
一人暮らしの方は、この各項目について「実はどのような支障があるか」を具体的に医師に伝える必要があります。
適切な食事・身のまわりの清潔保持・通院と服薬の管理
「適切な食事」とは、単に食べ物を口に運べるかではなく、献立を考え、調理し、片付け、栄養バランスを保てるか、ということです。
一人暮らしで「カップ麺しか食べられない」「1日1食しか食べられない」といった実態があれば、それは能力の欠如を示します。
「身のまわりの清潔保持」は、入浴の頻度や着替え、部屋の掃除、洗濯です。
数週間お風呂に入れない、洗濯物が溜まって着る服がないといった状態は重要な指標です。
「通院と服薬」についても、自分の意思で通院日を守り、薬を正しく飲めているか。
飲み忘れが多い、通院に家族の付き添いや電話連絡が必要な場合は、支援が必要な状態と言えます。
社会性、買い物、金銭管理、対人関係のスキル
「社会性」や「対人関係」は、近隣住民とのトラブルがないか、役所や郵便局での手続きが一人でできるかを見ます。
一人暮らしで誰とも話さず、手続きも滞っているなら、それは社会的な孤立を意味します。
「買い物」や「金銭管理」は、計画的に必要なものを買い、公共料金を期日までに払えるかです。
衝動買いで生活費を使い果たしてしまう、請求書を放置してしまうといった実態は、自立した生活が送れていない証拠となります。
身のまわりの安全保持および危機管理
火の不始末をしない、戸締まりを忘れないといった基本的な安全確保に加え、体調が悪化したときに自ら助けを求められるか(SOSを出せるか)も重要です。
一人暮らしで具合が悪くなっても誰にも連絡できず、何日も寝込んでしまうような状態は、危機管理能力が著しく低いとみなされます。
一人暮らしでも「不利益」を避けるための診断書の書き方

審査官に「一人暮らし=元気」と思わせないためには、診断書の「備考欄」や「日常生活能力の判定」をいかに事実に基づいて厚くしてもらうかが鍵となります。
家族やヘルパー、訪問看護からの「目に見えない支援」を可視化する
一人暮らしであっても、実際には周囲の支えがあるケースは多いはずです。
例えば、
「週に一度、離れて暮らす母親が来て作り置きの料理を作ってくれている」
「ゴミ出しはヘルパーがやっている」
「訪問看護師が服薬チェックに来ている」
といった事実です。
これらの「外部からの支援」があるからこそ一人暮らしが成立している場合、その支援の内容を診断書に明記してもらう必要があります。
これにより「支援がなければ生活が破綻する」ことが証明され、実態は同居家族がいるのと同等の制限があるとみなされます。
医師に伝えるべき「無理をしてこなしていること」の実態
診察室で医師に「生活はどうですか?」と聞かれ、つい「なんとかやっています」と答えてしまう方は多いです。
しかし、この「なんとか」の中身こそが重要です。
「1時間かけてようやく洗濯機を回したが、干す気力がなくて数日放置した」
「食事はコンビニに行く元気もなく、数日パンだけで済ませた」
といった、無理をして、あるいは不十分な形でしかこなせていない実態をメモにまとめて医師に渡しましょう。
医師が「できている」と勘違いすることを防ぐのが第一歩です。
部屋の惨状や食事の内容など、具体的なエピソードの重要性
抽象的に「掃除が苦手です」と言うよりも、「部屋にコンビニの空き容器が山積みになり、害虫が発生しているが片付けられない」と伝えるほうが、障害の重さはダイレクトに伝わります。
こうした具体的なエピソードが診断書に盛り込まれると、審査官も「この一人暮らしは自立とは言えない」と判断しやすくなります。
恥ずかしがらずに、ありのままの「できない姿」を伝える勇気が必要です。
「社会的孤立」が判断基準に与える影響
一人暮らしの場合、誰にも迷惑をかけていないから大丈夫と思いがちですが、審査では「社会との繋がり」の質も問われます。
誰とも交流せず引きこもっている状態は「自立」ではない
「一人で平穏に暮らしている」ように見えても、それが「他者との接触を一切絶ち、引きこもらざるを得ない状態」であれば、それは重度の精神障害の現れとみなされます。
家から出られない、電話に出られない、メールの返信もできないといった「社会的引きこもり」の状態は、日常生活能力が著しく制限されている状態として評価されます。
近隣トラブルや経済的困窮など、一人暮らしの「破綻」をどう伝えるか
もし、騒音やゴミの問題で近隣から苦情が来ている、家賃や光熱費を滞納して督促が来ているといった事実があれば、それは一人暮らしが限界を超えている証拠です。
こうした経済的・社会的な「破綻」の事実は、診断書の中でも特筆すべき事項です。
これらは「日常生活が著しい制限を受けている」ことを示す強力な客観的証拠となります。
福祉サービスの利用(相談支援など)がもたらす証明能力
一人暮らしで不安な場合は、自治体の相談支援事業所や訪問看護などを積極的に利用することをお勧めします。
これらの福祉サービスを利用しているという事実は、「プロの支援が必要な状態である」ことを公的に証明してくれます。
サービス提供者からの報告を主治医に共有してもらうことで、より客観性の高い診断書の作成が可能になります。
社労士が教える、更新や申請で失敗しないためのアドバイス

最後に、これから申請や更新を迎える方へ、実務的なアドバイスをお伝えします。
「頑張っています」が裏目に出る?診察時のNGワード
真面目な方ほど、診察室で
「自分なりに工夫して頑張っています」
「なんとか一人で頑張りたいです」
と前向きな姿勢を見せてしまいます。
しかし、障害年金の審査は「今、どれだけできないか」を判定する場です。
「頑張ればできる」は、審査上は「できる」に分類されてしまいます。
今のあなたが、一切の無理をせずに、ありのままの状態で何ができて何ができないのかを、正確に(時には残酷なほど正直に)伝えるようにしてください。
就労と一人暮らしが重なった時のダブルのリスク管理
「働いている」かつ「一人暮らし」という条件が揃うと、障害年金の審査(特に2級以上)は非常に厳しくなります。
この場合、単に一人暮らしの実態を伝えるだけでなく、職場での配慮(短時間勤務、業務の軽減、休憩の多さなど)についても詳しく説明し、「就労も生活も、周囲の特別な配慮があって初めて成り立っている」ことを強調する必要があります。
一人暮らしを始めたばかりの時期の申請における注意点
これまで家族と同居していた方が一人暮らしを始めた直後に申請を行う場合、「これから自立していく意欲がある」とみなされ、等級が下がってしまうリスクがあります。
もし、リハビリの一環として、あるいは家族との関係悪化でやむを得ず一人暮らしを始めたのであれば、その背景と「現在どのような困難に直面しているか」をセットで伝えることが重要です。
まとめ
一人暮らしをしているからといって、障害年金を諦める必要は全くありません。
大切なのは「一人で住んでいる」という形式的な事実ではなく、その中身である「生活の質と制限」をいかに正確に書類に反映させるかです。
自分ひとりで自分の「できないこと」を整理し、医師に伝え、審査官を納得させる書類を作るのは、心身に不調を抱える方にとって非常に大きな負担となります。
もし、「一人暮らしだから不利になるかも」と不安を感じ、筆が進まないようであれば、ぜひ一度、障害年金の専門家である社会保険労務士にご相談ください。
あなたの生活の実態を丁寧に汲み取り、正当な評価が受けられるよう、診断書の作成依頼から申請までを全力でサポートいたします。
障害年金について、あわせて知っておきたい関連情報はこちらをご覧ください。
あわせてチェックしたい関連動画
ここまで「一人暮らしと日常生活能力」について解説してきましたが、動画ではさらに踏み込んで「審査で損をする人・得をする人の決定的な違い」を詳しくお話ししています。
文章では書ききれなかった「審査官の視点」を5分程度でまとめていますので、申請前にぜひ一度ご覧ください。



