「うつ状態の時は寝たきりで何もできないけれど、躁状態の時は元気に活動できる」。
双極性障害(躁うつ病)を抱える方から、よくこのようなお話を伺います。
しかし、この「躁状態の時の元気さ」こそが、障害年金の申請においては、予期せぬ「不支給の落とし穴」となることがあるのです。
障害年金の審査は、ほぼ100%、提出された書類(特に診断書)の内容だけで判断されます。
もし、主治医があなたの躁状態の時の行動を「病状が軽く、日常生活に支障がない」と誤解して診断書に記入してしまったら、たとえうつ状態が深刻であっても、不支給になってしまう可能性があるのです。
この記事では、双極性障害特有の申請の難しさと、躁状態の時の実態を医師に正確に伝え、正当な評価を得るための具体的なヒントを解説します。
経済的な不安を解消し、治療に専念できる環境を取り戻すための参考にしてください。
双極性障害と障害年金。なぜ「躁状態」が問題になるのか
双極性障害は、気分の著しい高揚や活動性の高まりが見られる「躁状態」と、気分の落ち込みや意欲の低下が見られる「うつ状態」を繰り返す病気です。
障害年金の申請において、この「波」があることが、審査を複雑にする最大の要因です。

1. 「うつ状態」と「躁状態」の日常生活の違い
うつ状態の時は、食事も喉を通らず、お風呂に入ることもできず、一日中ベッドから起き上がれないといった、誰が見ても「日常生活に支障がある」状態が続きます。
医師もこの状態は診断書に書きやすいのです。
一方、躁状態の時は、睡眠時間が短くても平気で、次から次へとアイデアが浮かび、精力的に活動します。
一見すると「元気で、病気が治った」ようにも見えますが、実際には、後述するような問題行動を伴い、社会生活を破綻させているケースが少なくありません。
2. 障害認定基準における精神疾患の評価ポイント
精神疾患の障害年金審査では、「日常生活能力の判定」という項目が非常に重要です。
これは、「適切な食事」「身辺の清潔保持」「金銭管理と買い物」「対人関係・意思表示」「社会性」「危険の認識」「通院と服薬」といった項目について、どの程度の援助が必要かを評価するものです。
問題は、躁状態の時の「精力的な活動」が、これらの項目で「自立している(援助が不要)」と判断されてしまうリスクがあることです。
例えば、散財をしていても「買い物は自分でできる」と見なされたり、多弁で攻撃的になっていても「対人関係は保てている」と誤解されたりするのです。
3. 診察時の「演技」と主治医の誤解
躁状態の時は、本人に病識(自分が病気であるという自覚)が乏しいことが多く、診察室でも「先生、調子が良いです!」「もう大丈夫です!」と明るく振る舞ってしまうことがあります。
医師は、その短時間の診察時の姿を見て、「病状が安定している」と判断し、診断書に「日常生活は概ね良好」といった内容を記載してしまうのです。
これが、実態と診断書の間に大きな乖離を生む原因となります。
不支給を防ぐために。躁状態の「問題行動」を具体的に伝える技術
主治医に「躁状態=元気=日常生活は自立」という誤解を与えないためには、躁状態の時の行動が、いかに日常生活や社会生活を破綻させているか、その「問題行動」を具体的に伝える必要があります。
1. 金銭管理・対人関係・就労面での具体的な困難さ
単に「活動的」と言うのではなく、以下のような具体的な事実を伝えましょう。
金銭管理:
「数百万円の高額な買い物を一晩でしてしまった」
「何枚ものクレジットカードでキャッシングを繰り返している」
「突飛なアイデアに全財産を投資しようとした」
対人関係:
「四六時中、友人に電話をかけ続け、相手を疲れさせた」
「些細なことで激怒し、家族や店員に攻撃的な態度をとった」
「見知らぬ人に一方的に話しかけ、トラブルになった」
就労・活動:
「何日も不眠不休で仕事をし、周囲の制止を聞かずに無理なスケジュールを組んだ」
「突如として転職や起業を繰り返し、結局どれも長続きしなかった」。
これらの行動は、一見元気に見えても、結果として自分自身や周囲を深く傷つけ、生活を破綻させるものであることを、はっきりと医師に伝えることが重要です。
2. 家族や周囲の証言を客観的な事実としてまとめる
躁状態の時の行動は、本人よりも家族や周囲の人の方が、その異常さに気づいていることが多いものです。
家族に、躁状態の時の具体的な行動や、それによってどのような迷惑がかかったか、どのような援助が必要だったかを書き出してもらいましょう。
それを、医師への伝え方や、自分で作成する「病歴・就労状況等申立書」の根拠として活用します。
3. 「うつ状態」とのギャップと、その疲弊を強調する
躁状態の後は、多くの場合、反動で深刻なうつ状態に陥ります。
「あの時はあんなに元気だったのに、今は何もできない」というギャップこそが、双極性障害の深刻さです。
医師には、躁状態の時の精力的な活動が、結果として自分自身の体力を使い果たし、さらに深い落ち込みを招いているという「疲弊の実態」も併せて伝えましょう。
医師への診断書依頼。実態を反映させるための準備ポイント
医師に実態を反映した診断書を書いてもらうためには、診察時の口頭の説明だけでは不十分です。
事前にしっかりと準備をし、医師に情報を渡す工夫が必要です。

1. 日頃から「体調メモ」をつけ、医師に共有する
診察は月に数回、短時間です。
その時の記憶だけで病状を伝えるのは難しく、ましてや過去の躁状態の行動を正確に思い出すのは至難の業です。
日頃から、その日の気分(躁・うつ)、睡眠時間、具体的な行動(何をしたか、誰と会ったか、いくら使ったか)、周囲の反応などを、簡単なメモで良いのでつけておきましょう。
それを診察時に医師に渡すことで、医師はあなたの日常生活の波を客観的に把握できるようになります。
2. 診断書の下書き(案)作成を社労士に依頼するメリット
障害年金に特化した社労士は、障害認定基準を熟知しており、どのような情報が診断書に必要かを把握しています。
社労士に、あなたの体調メモや家族の証言、そして社労士自身のヒアリングを元に、「診断書作成依頼書」を作成してもらうことも可能です。
それを医師に渡し、「このような実態を盛り込んでいただけないでしょうか」と相談することで、医師も诊断書が書きやすくなり、結果として不支給のリスクを大幅に減らすことができます。
3. 焦らず、医師との信頼関係を築きながら進める
医師に「診断書を書いてください」と焦って迫るのは逆効果です。
まずは、日頃の診察で、自分の体調メモを渡し、躁状態の時の問題行動も含めて本音で話すことで、医師との信頼関係を築くことが先決です。
医師があなたの「本当の苦しみ」を理解してくれて初めて、実態に即した診断書が生まれます。
まとめ:双極性障害の「波」に、焦らず、専門家を頼り、向き合う

双極性障害での障害年金申請は、躁状態という特有の「落とし穴」があるため、精神疾患の中でも難易度が高いと言えます。しかし、正しい手順を踏み、自分の実態を医師に正確に伝え、必要であれば専門家のサポートを受けることで、道は必ず開けます。
今、あなたが感じている「躁状態の時の後悔」や「うつ状態の時の無力感」は、決してあなたのせいではありません。
制度を賢く利用することで、経済的な土台を築き、焦らずに治療と向き合える環境を整えることができます。
まずは、自分が受給の条件に当てはまるのか、専門家に相談することから始めてみませんか?
あなたの人生が、少しでも穏やかな波を取り戻せるようお手伝いいたします。
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