監修:社会保険労務士 請川智章(社会保険労務士登録番号 第37250012号/中四国障害年金相談センター 代表)
本記事は国民年金法・厚生年金保険法・厚生労働省と日本年金機構の公表資料に基づき作成しています。
この記事の結論
交通事故のけがでも、初診日や保険料の要件を満たし、障害が残っていれば障害年金を申請できます。
加害者から損害賠償を受けると、慰謝料や医療費を除いた生活補償の部分の範囲で、障害年金が最長36か月支給停止になります(国民年金法第22条)。
停止は事故の翌月から数えるため、示談を待たずに請求の準備を進め、内訳が分かる示談書を残すことが大切です。
「事故の相手から賠償金をもらうと、障害年金はもらえないのでは」「示談が終わるまで申請しないほうがいいのか」。交通事故で障害が残った方から、よくいただくご質問です。
この記事では、交通事故のけがで障害年金を申請できるか、損害賠償との調整の仕組み、示談の前に気をつけること、自賠責の後遺障害等級との違いを、国の資料をもとに整理します。
交通事故のけがでも、障害年金は申請できますか?
申請できます。障害の原因が病気かけがか、事故の相手がいるかどうかは、受給の要件に関係ありません。
初診日は、事故のあとに初めて受診した日
障害年金の初診日は、障害の原因となったけがで初めて医師の診療を受けた日です(国民年金法第30条)。交通事故では、救急搬送された日や事故後に最初に受診した日が初診日になるのが通常です。その日に加入していた年金制度と、保険料の納付状況で受給の可否が決まります。
事故のときに会社員なら、障害厚生年金の対象
初診日に厚生年金に加入していれば障害厚生年金(1〜3級)、国民年金だけなら障害基礎年金(1・2級)の対象です。障害の程度は、原則として初診日から1年6か月たった日の状態で判断されます。手足の切断などは、その日に障害の程度が判断される特例があります。
損害賠償を受け取ると、障害年金はどうなりますか?
損害賠償のうち生活補償にあたる部分の範囲で、障害年金が一定期間支給停止になります。同じ損害に対して二重に補償を受けないための仕組みで、国民年金法第22条第2項と厚生年金保険法第40条第2項に定められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調整の対象 | 損害賠償金の総額から、医療費・葬祭料などの実費と慰謝料を差し引いた生活補償の部分 |
| 調整されないもの | 慰謝料、医療費などの実際に支出した費用 |
| 支給停止の上限 | 36か月(事故が平成27年9月30日以前の場合は24か月) |
| 数え始め | 事故の翌月から(年金の受給権が発生するまでの月数は差し引く) |
| 年金を先に受けていた場合 | 支給済みの年金を内払いとみなし、その後の年金から差し引いて調整 |
停止期間は「事故の翌月」から数える
厚生労働省の資料では、支給停止の月数は上限の36か月から「事故発生の翌月から年金の受給権発生月まで」の月数を差し引いて計算するとされています。障害認定日が事故から1年6か月後なら、実際に停止される期間は残りの月数に限られます。

賠償金をもらったら、障害年金はずっともらえなくなるのでしょうか?
社労士ずっとではありません。停止には上限があり、慰謝料は対象外です。受け取った賠償金の内訳を一緒に確認してみましょう。
ご自身のケースが当てはまるか、迷っていませんか
障害年金は、同じ傷病でも初診日や日常生活の状況によって結果が変わります。記事だけでは判断がつかない部分も多いので、気になる点があればお気軽にお声かけください。ご依頼前のご相談は無料です。
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示談の前に、気をつけることはありますか?
あります。損害賠償の内訳が分かる示談書を残すことと、示談を待たずに障害年金の請求を進めることです。
示談書は「総額」だけでなく「内訳」が大切
調整の対象は生活補償の部分だけなので、慰謝料や医療費がいくらかが分からないと、正しく計算できません。厚生労働省の資料でも、損害賠償金の総額と内訳が分かる示談書などの確認書類が求められています。示談書を作るときは、内訳が書かれているかを確認しておきましょう。
障害年金の請求は、示談の成立を待たなくてよい
日本年金機構は、損害賠償金の算定書を「すでに決定済の場合」に提出する書類としており、示談前でも請求できます。さかのぼって受け取れる年金は時効により5年分まで(国民年金法第102条)なので、示談交渉が長引いても請求の準備は並行して進めてください。
自賠責の後遺障害等級と、障害年金の等級は同じですか?
同じではありません。自賠責の後遺障害等級と障害年金の等級は、別の基準で別々に審査されます。
障害年金は「障害認定基準」で判断される
自賠責の後遺障害等級は1〜14級で、損害賠償の額を決めるためのものです。障害年金は、国の障害認定基準に沿って日常生活や仕事への制限の程度を見て、1〜3級を判断します。後遺障害等級が重くても障害年金で不支給になることも、その逆もあります。

通勤中や仕事中の事故は、労災との調整も
通勤中や仕事中の交通事故は、労災保険の給付も関係します。障害厚生年金や障害基礎年金と労災保険の障害(補償)年金を両方受ける場合は、労災側の年金が減額されて調整されます。損害賠償・労災・障害年金の3つが重なるため、全体を整理してから手続きを進めることが大切です。
よくある質問
Q. 相手のいない単独事故でも、障害年金は申請できますか?
A. 申請できます。障害年金は、事故の相手がいるかどうかや過失の大きさに関係なく、初診日や保険料納付の要件と、障害の程度で審査されます。第三者の行為による事故ではないため、損害賠償との支給調整も行われません。
Q. 支給停止になるなら、請求しても意味がないのでは?
A. 意味があります。支給停止には最長36か月の上限があり、停止中も受給権はなくならず、停止期間が終われば障害年金が支給されます。請求が遅れると時効で受け取れない分が出るおそれもあるため、早めに請求しておくことが大切です。
Q. 慰謝料しか受け取っていない場合も、調整されますか?
A. 調整されません。調整の対象は、損害賠償金の総額から医療費などの実費と慰謝料を差し引いた生活補償の部分です。ただし示談書で内訳が分からないと判断できないため、慰謝料であることが分かる書面を残しておきましょう。
Q. 示談の前に障害年金を受け取ると、あとで返す必要がありますか?
A. 一括で返すのではなく、その後の年金で調整されるのが原則です。損害賠償を受けた後、支給済みの年金は内払いとみなされ、その後に支払われる年金から差し引かれます。賠償を受けたら速やかに年金事務所へ届け出てください。
まとめ:損害賠償があっても、障害年金の請求は進められる
交通事故のけがでも障害年金は申請でき、損害賠償との調整は生活補償の部分に限られ、期間にも上限があります。まずは事故後に初めて受診した病院と日付を確認し、示談書の内訳を確かめたうえで、請求の準備を始めてみてください。中四国にお住まいの方はもちろん、全国からのお問い合わせに対応しています。来所が難しくてもLINEで気軽にご相談いただけます。
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参考資料
・国民年金法 第22条・第30条・第102条(e-Gov法令検索)
・厚生年金保険法 第40条(e-Gov法令検索)
・第40回社会保障審議会年金事業管理部会 資料2(厚生労働省)
・障害基礎年金を受けられるとき(日本年金機構)
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