障害年金を申請、あるいは更新する際、多くの方が直面するのが「働いていると年金がもらえないのではないか?」という不安です。
特に精神障害や知的障害の場合、就労状況は「日常生活能力」を判断する重要な指標となるため、審査に与える影響は小さくありません。
しかし、ひとえに「働く」と言っても、一般企業でのフルタイム就労と、福祉的なサポートを受けながらの就労(A型・B型)では、審査における扱われ方が全く異なります。
本記事では、それぞれの就労形態が審査にどのような影響を及ぼすのか、その決定的な違いと対策を詳しく解説します。
障害年金の審査における「就労」の基本的な考え方

そもそも、なぜ就労状況が審査に影響するのでしょうか。
それは、障害年金の認定基準が「労働能力の喪失」や「日常生活への支障」をベースにしているからです。
「働いている=不支給」ではないという大前提
よくある誤解として「1円でも稼いだら受給できない」というものがありますが、これは誤りです。
認定基準には「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したと捉えず、その療養状況や就労の実態を詳細に確認する」と明記されています。
重要なのは収入の多寡ではなく、「どのような制限があるか」です。
審査官が注目する「就労の制限」と「援助の内容」
審査官は、単に「出勤しているか」だけでなく、職場でどのような配慮を受けているかを確認します。
例えば、短時間勤務、業務内容の軽減、頻繁な休憩、周囲からの指示出しなどです。
これらの「援助」がなければ働けない状態であれば、それは「労働能力がある」とはみなされにくいのです。
一般就労(クローズ・オープン)が審査に与える影響

一般就労とは、福祉サービスを通さず、通常の雇用契約に基づいて働く形態です。
これには「クローズ就労(障害を隠す)」と「オープン就労(障害を公表する)」があります。
クローズ就労(フルタイム)の厳しい現実
障害を隠して健常者と同じ条件で働いている場合、審査では「日常生活に著しい制限がない」と判断されるリスクが非常に高くなります。
特に2級以上の受給は厳しくなるのが現実です。
ただし、「無理をして働いており、帰宅後は寝込んでしまう」といった深刻な実情がある場合は、その詳細を訴える必要があります。
オープン就労(障害者雇用枠)での評価
障害者雇用枠の場合、企業側から「合理的配慮」を受けていることが前提となります。
このため、一般就労であっても「援助がなければ就労できない状態」として、2級や3級が認められる可能性があります。
ただし、勤続年数が長く、業務が安定している場合は「改善した」と見なされるリスクも併せ持っています。
非正規・パート・アルバイトの場合の判断
フルタイムではなく、週2〜3日のパートタイムなどの場合は、労働時間が短い理由が「障害による体力の限界」であることを強調する必要があります。
収入が低くても、職場での配慮が全くない場合は「自立して生活できている」と誤解される可能性があるため、申立書での補足が重要です。
就労継続支援A型が審査に与える影響
就労継続支援A型は、事業所と雇用契約を結び、最低賃金が保証される形態です。
「雇用」でありながら「福祉」であるという特殊性
A型は最低賃金が発生するため、一見すると「一般就労に近い」と捉えられがちですが、実態はあくまで福祉施設での訓練です。
認定基準のガイドラインでも、A型での就労は「援助を受けている」状態として明確に区別されています。
A型通所者が2級認定を受けるためのポイント
A型で週5日働いているからといって、即座に不支給になることは稀ですが、診断書の記載には注意が必要です。
主治医が「A型で元気に働いている」とだけ書いてしまうと、審査官に誤解を与えます。
「福祉的就労の枠組みの中だからこそ維持できている」という文脈が必要不可欠です。
就労継続支援B型が審査に与える影響
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばず、作業の対価として「工賃」を受け取る形態です。
福祉的側面が最も強く、審査への影響は極小
B型は、現時点で一般企業やA型での就労が困難な方を対象としています。
そのため、B型に通所している事実は、むしろ「自力で働くことが困難なことの強力な裏付け」となります。
工賃の額と日常生活能力の関係
B型の工賃は一般的に低額であり、これだけで自立した生活を送ることは不可能です。
審査においても「B型での活動=就労能力あり」と判定されることはまずありません。
週に数回、短時間の通所であれば、2級以上の認定を受ける可能性はあると言えます。
審査を有利に進めるための「伝え方」のポイント

どの形態で働いているにせよ、審査で最も重要なのは「働けている事実」ではなく「働けている理由」を正確に伝えることです。
職場での配慮を具体的に数値化・可視化する
「配慮を受けています」という抽象的な表現ではなく、
「1時間に1回、15分の休憩をもらっている」
「パニック時には別室での休息が許可されている」
「指示はすべてマニュアル化されている」
など、第三者がイメージできる具体例を挙げてください。
就労後の「反動(疲弊)」を詳細に記録する
「仕事に行けている」ことの代償として、帰宅後に食事が摂れない、入浴ができない、休日は一日中寝込んでいるといった「日常生活への支障」を診断書や申立書に反映させることが、受給の可能性を大きく左右します。
診断書と申立書の整合性を徹底する
医師が書く診断書の「就労状況」欄と、本人が書く「病歴・就労状況等申立書」の内容が矛盾しないように注意しましょう。
医師には、職場で受けている配慮のリストを事前にメモで渡しておくのが非常に効果的です。
まとめ:自分に合った働き方と年金受給の両立を
障害年金は、障害を持ちながら社会とつながり、自立した生活を送るための大切な権利です。
一般就労をしているからといって諦める必要はありませんし、A型・B型を利用しているからといって審査を軽視してはいけません。
大切なのは、ご自身の就労状況が「認定基準のどこに該当するのか」を客観的に把握し、適切な書類を揃えることです。
就労と年金のバランスについて不安がある場合は、専門家である社会保険労務士に相談し、戦略的な申請を行うことをお勧めします。



