概要
- 46歳・男性・香川県
- 後天性免疫不全症候群(HIV感染症)・うつ病・ADHD
- 強い抑うつ気分・無気力、食欲不振、服薬拒否、希死念慮、衝動的過剰服薬、通院困難、外出拒否
- 清潔保持困難、金銭管理不能・浪費傾向、社会的孤立、日常生活全般の他者依存、思考停滞、意欲消失
相談から申請までの経緯
相談
ご相談者様は、数年前にHIV感染症と診断され、服薬治療を続けながら障害基礎年金2級を受給していました。
近年は治療の効果もあり検査数値が安定していたため、主治医からは「おそらく次の更新では2級の認定は難しいと思います」と言われていました。
その言葉を受けて、ご本人は「もう無理なんだ」と感じ、更新の診断書を提出せずに放置してしまいました。
しかし、感染が判明して以降、将来への不安や孤独感からうつ病を発症。
引きこもりがちとなり、心身ともに疲弊した生活が続いていました。
そんな中、お母様が「HIVでは難しくても、うつ病としてなら申請できるのでは」と思い立ち、当センターに相談に来られました。
ご本人は実家を離れて友人宅で生活しており、直接のやり取りが困難だったため、お母様と同居のご友人から詳しい生活状況を伺いながら申請の準備を進めました。
治療と生活の状況
ご本人は現在もHIVの治療を続けており、数値的には安定している状態でした。
しかし、精神面では極度の抑うつ状態が続いており、ほとんどの時間を寝て過ごす生活です。
食事は同居している友人が準備してくれればどうにか摂ることができますが、プロテインバーやゼリー飲料で済ませることも多く、空腹を感じても動けない日が続いていました。
入浴は週2回ほどで、洗顔や着替えもその時だけ。ひげや髪の手入れも最低限で、友人の声かけがなければ身の回りのことをすることはできません。
通院も一人では困難で、体調や気分によってはキャンセルしてしまうことも多く、服薬についても副作用や不安感から自己判断で中断してしまうことがありました。
金銭管理はすべて友人に任せきりで、不要なネット通販で浪費してしまうこともあります。
他人との関わりを避け、両親や親戚が訪ねても会わないことが多く、社会とのつながりは完全に途絶えていました。
「何もできない」「自分が生きている意味がない」と感じる日が続き、過去には自殺を試みたこともありました。
申請までの経緯
当初は「うつ病単独」で障害年金の申請を行いましたが、提出後に日本年金機構から「HIVによる障害年金の更新手続きがされていないため、新しい障害(うつ病)の審査が進められない」との連絡が入りました。
ご本人も主治医も「もう無理だろう」と思い込んでいたため、診断書の提出をしていなかったのです。
しかし、このままでは新たな申請すら審査してもらえないという事実をお伝えし、改めて主治医やご本人に説明・説得を行いました。
「今さら提出しても意味がない」と考えていたご本人も、最終的には納得され、HIVの診断書を改めて提出することになりました。
その後、うつ病の診断書と併せて審査が行われることになり、誰も予想していなかった結果が待っていました。
結果
等級
障害基礎年金1級・併合認定
受給額
年金額 約110万円
審査の結果、HIVとうつ病の併合認定により障害基礎年金1級が認定されました。
「もう更新は無理だろう」「診断書を出しても意味がない」と諦めかけていた中で、まさかの1級認定。
医師もご家族も驚かれる結果となりました。
HIVそのものは数値的に安定していたものの、長年の感染による心身への影響と重度のうつ症状が生活全般を著しく制限していることが総合的に評価されたものです。誰も予想しなかった“再申請からの逆転結果”でした。
まとめ
この事例は、「更新を諦めて放置していた年金が、診断書を出してみたら1級に認定された」という、極めて珍しいケースです。
障害年金の世界では「医師に難しいと言われた」「もう出しても無理だ」と途中で手続きを止めてしまう方が多くいます。
しかし、実際には制度上、診断書を提出しない限り本当の結果は分かりません。
今回のように、放置されていた更新手続きを改めて行ったことで、思いもよらない形で“1級認定”を受けられることもあるのです。
重要なのは、「どうせ無理だ」と思わず、一度きちんと現状を整理し、専門家と一緒に申請してみること。
ご本人やご家族が諦めずに動いたことで、思いがけず最も高い等級での認定につながりました。
このケースは、まさに「最後まであきらめなかったことが結果を変えた」象徴的な事例です。
コメント